村上春樹氏の本を読む際、ジャズに関する記載があった頁の下を折るというのが私の癖だが、今回のこの本に関してはそれが少なかった。免色氏と主人公が聴くのは主にレコードでありまたクラシックがその殆どで、上巻P317;ビートルズのフールズオンザヒル(極稀にジャズボーカリストがコレを歌うことがある)を除いて登場するジャズは僅かに六箇所。
上巻P.40;MJQ『ピラミッド』(氏の朋友、安西水丸氏が好んで聴いたもの)
上巻P.247;セロニアス・モンク『モンクス・ミュージック』
上巻P.269;「右足でトニー・ベネット」
上巻P.361;騎士団長がセロニアス・モンク
下巻P.41;「ダブルベースの同じ開放弦を一度だけぼんと鳴らしても、チャールズ・ミンガスの音とレイ・ブラウンの音が確実に違って聞こえるのと同じように。」」
下巻P.221;「古いスピーカーから古い時代のジャズが流れている。ビリー・ホリデーとかクリフォード・ブラウンとか。」
読了後に「この本が私を一体どこに連れていってくれるのか」を期待して読むことと、この本が読者の心内をどう撹拌して自身の中で物語として定着するのかを考えるのでは読後感は違ったものになるのだろう。登山然り。
過去の作品と比べて「面白かった・面白くなかった」だの、1Q84のふかえりとまりえ(リトルピープルと騎士団長)との比較、螺子槇鳥や過負荷1Q84からの系譜を語る前者の感想が多い中、私とて村上春樹作品の決して良い読み手ではないにせよこの作品を時間を掛けて読んだ甲斐はあったと思っている。
主人公とまりえの失踪期間の一致に警察の追求が及ばなかったのは疑問の残るところだったが、趣旨からは離れるのでまあいい。
また頁折りだが、特に印象に残った部分の項は上を折ることにしており、今回は五箇所あった。
上巻P.168;(中学校で主人公は)登山クラブに入っていた
下巻P.32;「彼(免色)は燃えさかるビルの十六階の窓から、コースターくらいにしか見えない救助マットめがけて飛び降りろと言われている人のように、怯えて困惑した目をしていた。」
下巻P.138;アイラ島(ジョージ・オーウェルが『1984』を執筆した島)の近くのジュラ島のとてもおいしいわき水
下巻P.269;「私はあなたを見ていてよくうらやましく感じるのです。あなたには望んでも手に入らないものを望むだけの力があります。でも私はこの人生に於いて、望めば手に入るものしか望むことができなかった。」
下巻P.401;完璧なオムレツだ。「そうでもありません。もっとよくできたオムレツを前に作ったこともあります。」それはいったいどんなものだろう? 立派な翼をそなえて、東京から大阪まで二時間あれば空を飛んでいけるオムレツかもしれない。
主人公が画家であるという予備知識もなく読み始められたのが幸いした。一画家にとっての絵の捉え方や、日本画洋画の認識の違い、抽象画とは、といった普段聞くことの意外に少ない事項に関する記述あって、日本近代洋画観賞を趣味にする私にはかなり興味を惹く部分多くあった。丁度半年前の今日に出会った近所の絵の教室の先生である脇田さんは読んだことあるだろうか? 今度会ったら是非聞いてみたい。
読書の秋でもないが、明日から10月と言うのに藍川橋で真夏の蝉の声を聞いた。名古屋では34℃越え! これは只事ではない。こんな日にも擦れ違う多くの車は冷房をかけている、ばかげている。これでは来夏も暑いだろう、きっと。
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