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売価が高いので価値を見出せる人にしか手が出せない本かもしれない。でもイイんデス、何はともあれ紙媒体で残ったのだから。
レコードで言うところの「ジャケ」(装丁)も、配色やI滝と文字の配置よろしく編集者の労をねぎらいたい思いである。目次等、背景が黒で文字を浮かばせたそれらは、渓谷内のゴルジュを意識したものと思われる。
まずは一番の関心事だった、一連の「称名川」の項を繰った。
一本一本にして遡行対象として価値の高い「日本の渓谷」の項が各沢2ページに纏め上げられている中でこの項ラストに配された「称名川」に投じられているページ数たるや、実に47ページ！ この項だけにして読後、脇汗かいてグッタリとしてしまった。
偵察行の内容や進捗、その際の思いについて詳細に書かれている。他項では記載ある細やかな遡行図が、ここでは掲載が無いのは氏の意図するところと以前掲載雑誌にあった。理系の氏である、彼の手元にはソレが存在するはずである。
一体全体、どれだけの熱量がこの一連の行為に投じられたことか。ハンノキ滝登攀が掲載あれば完璧だったのだが、それを残念に思っているのは私以上に御本人の事と思う。
いつになく折り目がパチパチと付いてしまった。
P.131；称名滝(しょうみょうのたき)の落差は、青島氏が指摘した点を踏襲して320mを採用している。
P.132；称名滝4段目一ピッチ目がかつては4級だったのが滝の飛沫に依る苔の生育とホールドの欠損で5.10a以上に変化している点が乾いたクライミングとは違って心楽しい。
P.139；下ノ廊下偵察行の、第4回目で「不本意ながらも」側壁上部からの偵察を行うことにした、と意識レベルの高さがここにある。
P.151；称名滝右壁登攀は、引き返せない地点からの”向こう側”に踏み込んだ価値高い記録である。P.153にある、そのような状況下での6P目、8P目:(��)が強烈。
P.158〜167；称名川完全遡行は、改めて『凄絶』の一言。人間技とはとても思えない。
P.167；の下段「と同時に、どこか物悲しさも訪れた」は、ナンダ・デヴィ初登頂のティルマンや、空海書くところの男体山に初めて登った勝道上人と同様の感慨で強く興味を惹いた。命を削り、それを差し出すことも厭わない位にまで自分を追い込んだ結果として得た対価、だろうか。
そして、天気予報から逆算して予定日数7日を晴天6日に嵌めるべく一日短縮した廊下初日行動が結果として成功に導いた勝因だったという点も氏ならではの戦略と強運だったろう、一時間ズレていだだけで”終わって”いたかもしれない大雨を避けられたのだから(ラストに最初で最後の泳ぎで廊下を抜ける行がある)。
P.170〜174の装備表だが、エクセルシートらしきこの最下段には各山行での総重量の記載があり、理系らしさが現れておりP.173項のポリタンクに、氏がオールドスクール？出であることも表現されている。今、売っているのだらうか？
この「称名川」部分だけの物語にして、本一冊に再編して全国の各高校各大学各図書館に常備配置してもらいたい位のものだが、21世紀にしてこの内容が真に伝わるかは怪しい。これまで行われた彼の地での登攀史をおさらいして、現地にも赴き、沢登りや不確定要素の強い支点での滝登りを体験してやっとこ、ここに記載してあることの四分の一くらい理解できる、かもしれない。
「剱沢大滝登攀」「剱沢キャニオニング１st ディッセント」そして「チャーカンシー１st アッセント」「同１st ディッセント」それぞれのボリュームだけでも消化不良を起こしそうな気配だ。これからまた、じっくりと読み進めたい。
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