その書名は「デスゾーン 栗城史多のエベレスト劇場」というげな。第18回開高健ノンフィクション賞受賞作の本著者は河野啓(さとし)という、北大出のテレビマンで今の私と似た御髪をした方である。
まずは家内がアッと言う間もなく涙と共に読了し、次いで私が(私にしては早くも)一泊二日で読了した。山口っつぁから借りていたジャック・ロンドンの「火を熾す」や、斉藤幸平の「人新生」を差しおいて。
虚しさの立つ読後感だった。
栗城史多(くりきのぶかず)氏についてはこの際、脇に置こう。大内さんに借りた本を返さなかったのはイケナイことであるが(借りた本を返さなかったというのは、読めなかった読まなかったのであろう)。
家内と共に読んだ後の感想として共通したのは「読み物としては成立しているのかもしれないけれど、些か道義に反していやしまいか」というものであった。作者に対し、これを書いて公の場に晒してしまうそのデリカシーの無さへの理解に苦しんだ。占い師Xの証言がなければこの本の着地点が無いのは理解するけれど、X氏の行為は明らかにルール違反に当たるものだ。
「選考委員、大絶賛」と帯にあるも、それホント? 森達也氏のコメントが適切には思う。
「ならば、栗城をトリックスターとして造形した主犯は誰か。河野自身だ。」
無論、著者が自覚した上で書いているものと思うが、罪を受け入れる覚悟と意味で受賞したものと思う。
栗城氏が酪農学園大の山岳部に混じって山を始めたのは初耳だった。日本最後の清流とまで言われた後志利別川中流の道南・今金町で生まれ、その北海道で山を知り中山峠〜銭函までのスキー縦走に感激した行はあったものの、文中に日高山脈はおろか、大雪も知床も道北も道南も表れてこずいきなりデナリ(マッキンリー)というのが如何にも、と言おうか。
毀誉褒貶の激しかった栗城氏だった。静かな山の世界を好む私は派手好みの氏を擁護する気はないけれど、分かり易い文脈で語られがちな氏の行動を深く掘り下げも分析もせず担いだマスコミや安直な応援者はこの本を読んで何を思うのか? 存命時に正しく彼の行動を捉えて位置付けをした山岳雑誌はあったか? ブンショー氏がテレビで2.5流発言をしたのとライターの森山憲某氏が批判してブログが炎上したのだけは記憶としてあるが。
氏の死を以て、今後同じ様な過ちは繰り返してはならないし、専門知識を持つ山岳雑誌が正しく評価し世に伝える役割を果たすことを切に望む。また、何にせよ物語に分かりやすさ快適さ気持ち良さを求めるばかりでなく、背景を探り苦しみや悲しみも含めて理解しようと努力する姿勢を忘れてはならないと感じた。自戒を込めて。
先々週読了したにも拘わらず、ようやくこうして感想?を書けた。
実に、悲しい本である。
栗城某氏、賛否両論でしょう。
「賛」は、ブログと某NHK放送のみで描かれた虚像しか知らない人々か、山のお笑い芸人として某氏を肯定するか?
自分は「否」ですけどね。
おはようございます。NHKでも放映在りましたか、当時テレビがなかったので知りませんでした。
死者に鞭打つこの本を称賛する気はありませんが、栗城氏の存在によって励まされた報われたという方が実際に居るだけで、もう十分ではないでしょうか。
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