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「馬で郊外の小じんまりした住居や農家の傍らを通り過ぎると、家の前に日本人好みの草花を少しばかり植え込んだ小庭をつくっている。」「日本人の国民性の著しい特徴は、下層階級でもみな将来の花好きであることだ。」「もしも花を愛する国民性が人間の文化生活の高さを証明するならば、日本の低い階層の人々は英国の同じ階層の人に比べるとずっと勝って見える」
これは幕末に来日した英国の園芸家R・フォーチュンの記述だそうで（幕末日本探訪記）、日本人にとって頬の緩む話である。
私も何時しか花を愛でる日本人の一人になった。
40前までは花なんぞには興味も関心もなく、女々しい趣味だと思っていた位だった。山仕事で大径木の伐倒を仕込んでくれた親方のキヨッサは、花にも山菜にも興味のない頃の私を「色気(イロケ)の無ぇ奴っちゃな、アンタは。」とたしなめるシーンが続くにあたって、そんなら俺も一丁、花の名位は覚えてやるか、程度の入り方だった。キヨッサは道の駅で売って小銭稼ぎをするために庭一杯に花を育てており、私もそこにある山野草を中心に少しずつ花を覚えていった。
伐採師の特権として、樹上に着生する石斛(セッコク)や榧蘭(カヤラン)が稀に手に入ることがあって、まずはラン科を中心に覚えていった。私の属する森林組合の管轄地には石灰岩の露出する山もあって、石灰分を好む海老根(エビネ)を見掛けることもあった。花期には、伐倒でソレに当てないよう工夫して。
思い返せばキヨッサの御宅の庭の柿の木にはセッコクが咲き乱れ、小鉢にウチョウランありサギソウありの華々しい庭だった。
私はあのような親方に恵まれて、実に幸運だった。
昨日は石灰岩山の裾を流れる河畔で間伐作業をした。イオンの作用であろう、これ以上綺麗な水は無いであろう透明度の高い青々とした水を眺めて休憩していると、末井昭ばりにボーッとしてしまった。野田知佑が知らしめた亀尾島川も、板取川も目ぢゃない。
この川は湧水由来の水として知られている。その碧い水を眺めていると、人間が汚した大気を含んだ雨が石灰岩台地に降ってそこに浸透し、浄化されて再び地上に湧出している巨大ろ過装置を見る思いがして、そのよくできた自然の成り立ちにしばし陶然としてしまった。宮崎駿の映画にそんなのがあったっけな。
川べりの杉の木を伐り倒すと、その一本の枝に花期を過ぎたセッコクが着いていた。
その晩、この石灰岩台地がきっかけで、とある人との復縁があって、我が身に何事かが起こっている気さえした。花が取り持つ、縁か。ここには書かないけれど、余禄というにはビックリの出来事だった。
全然関係ない話になるけれど、全国から客を寄せる「モネの池」(これも石灰岩由来の池に思う)なんぞよりも余程こちらの方が価値高いものと思うのだが。私の予感としては山県市が上手く宣伝すればモネ池を上回る集客が見込めるものと思うがいや、やはり来ない方がイイ。入り口のコーヒー屋に客が入ればいい。
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