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返事としては、、、、、無い。今のところ「無い」と返答したい。
中学生時分の私の首根っこをガッシと鷲掴みにした野田知佑著「日本の川を旅する」は「川下りの名著」といって差し支えあるまい。この本に影響を受けてリバーツーリングの世界に足を踏み入れた輩を私の周りだけでも幾人も知っているだけに、インパクトの大きな著書だったといえる。先輩から頂戴した単行本はお宝として、何冊も購入した文庫本に至っては知人に配り、また拙宅本棚にも内何冊かは刺してある。
この本程の影響力を持つ「沢登りの名著」が、現時点で「無い」という意味で返答するつもりである。
冠松次郎の著すところの「渓」や「黒部峡谷」といった所謂古典も手にして読んだものの、文章の気品が些か高過ぎて心が着地しないのであった。
岩崎元郎氏の「沢登りの本」、中庄谷直「沢登りの勧め」、茂木完治・手嶋亨共著「すぐ役立つ沢登り読本」をはじめとして、沢登りに関しては一廉の人物に成りたいとの志の下で実践と共に関連書籍を集めては読んできた方だと思う。今となっては幻の沢登り専門誌「Fall Number」から沢登り界の西の雄である大阪わらじの会々報「溯行」、「日本登山大系� 銑�」まで、沢登り資料は多くないため意外に集め易さがあった。
名著、とは離れるが私に一番有用だったのは岳人誌のクロニクルであり、大学山岳部の部報、会報の記録だった。記述に熱量があり、若さゆえの勢いがあった。敗退や失敗の記録掲載もあってその不完全さに人間味を感じられた。当時の私は、大学の勉強よりもこれらの資料コピーに熱心だった。ファイルを何冊も作成したものだった。交通事故で夏の大きな計画をフイにしてしまった入院中には志水哲也著「大いなる山 大いなる谷」を熱心に読んだ。同年程の人物が一人、黒部の険谷に挑む姿に勇気を貰うのと同時に、10年10月暮らした北海道を去って故郷に戻ってからの目標となり、その幾本かをトレースすることが叶った。
と、こんな駄文をしたためるために自宅の本棚の前に立って最近の著書を忘れていたことに気付いた。成瀬陽一「俺は沢ヤだ！(新編増補)」と大西良治「渓谷登攀」があった（前著には私もちょっとだけ登場します。後著はロクスノ誌でインタビューした縁がある【No.87、P.78】）。これらは多分、他の方が挙げるに違いないので今回は私の”推し”とはしない。文はさておき「渓谷登攀」は写真のインパクトが気後れしてしまうほどに強いので逆に”引かれる”かもしれない。
今回、ヤマレコ日記で何が書きたかったかと言えば、ノダトモの著作のように血気盛んにして”やりたいことはあるのだが何をしていいのかワカナナイ”若者の首根っこをグイと掴むような情感溢れる「新潮文庫、ナツの一冊」が、沢登りというジャンルの中で生まれる余地が21世紀にして未だ残されているということを伝えたかった。服部文祥、角幡唯介両氏の一部にそれらしき文章表現があったと記憶するが、私がこれまでに感じてきた「沢登りのキモ」「熱い核心部」に直接触れるようなコレといった著作には出会えていない。あ、「西朋」の森下道夫氏の文は非常に好ましいデス。沢に限らず山に登る方は是非触れるべき文章に思う。
名著の推薦依頼で改めて思ったのは、沢登りの開拓期が終わって記録や情報が増えてくるにつけ、遡行者が求めるものの質が変化したという思いだ。そこには未知への探求はなく、登れることへの確認作業に堕している記録が殆どである。先鋭的に活動する溯行者ですらこれに取り込まれている現状では、面白いとこの世界に足を踏み入れた折角の初心者も沢登りとは他人の記録を踏襲した「パシャパシャ日帰り沢遊び」と誤解してしまうだろう。難しさを言っているのではない、難しくなくとも未知の空間は意外に転がっているもので、探そうとしていないだけである。情報が溢れれば溢れるほど、ヒトというのはその手の磁力に惹かれて未知に対して盲目になる憐れさがある。
「行けるだろうか？ 果たして自分はこの世界に再び戻って来られるだろうか？」といったヒリヒリした肌感覚を実に身近に体感できるのが沢登りであり登山だったはずだが、ここ最近のカジュアル登山はこの手の感覚をすっかりと排除する方向にある、と私には思われる。厳しいことを書き連ねたが、遊びだからこそ真剣に事に臨みたいのだ。でないと、物事の核心には迫れない。ただ単に、楽しいだけの登山から得られるものは少ない。
日比野さんの「百山百渓」ではダメでしょうか。やたら難しい用語をちりばめた技術的な解説だけを求める御仁には、多少物足りないかも知れないが「沢登りの楽しさ」を教えてくれる恰好の著書だと思います。山や沢は全国区ではないし、製本も私家版のやうでカッコウはつかないが、私にとっては不朽の名作です。
以上。
おお、「百山百渓」は一時期私も随分と読み込みました。マースケさんのようにこの本を名著とされる御仁は幾人もお見えのことでしょう。奥美濃周辺に暮らす岳人に、希望を与えてくれる著書でしたね。
ココに挙げられてないモノでは
非売品ですが、記憶の窓から という宮川廣年さん編集の本が好きです。沢登り以外の内容も含みますが、1972年の大峰の七面山南壁(大グラ)登攀なども載っててオススメてす。あ、初心者に、ではなく まっちゃんにオススメします😏
「記憶の窓から」、宮川さん御本人から戴いた本が拙宅にもあります。表紙絵を描かれた娘さんのお名前がっ！・・・なんです。
P.99に耳の痛いお言葉があり、印象に残っています。「面白いことは周りも面白いに違いないと信じた自分は、過去に横暴を極めていたのかもしれない。」
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