パンとは何か?なんでふわふわ発酵させなきゃいけないのか?強力粉薄力粉って何だ?なぜ砂糖やバターを入れるのか?フランスパン、イギリスパン、ドイツパンの風土、小麦、グルテンの違い相応の進化がおもしろい、カンパーニュとバゲットの歴史的成り立ちと役割の違い、リーンなパンとリッチなパン、白いパンと白くないパンの意味、パン屋の歴史的技術変革史、世界の小麦はどう違ってどんなパンができるのか?日本の国産小麦の特徴、パン屋の職人は何を考え、努力しているのか?がよくわかりました。意味も知らずに捏ねたり、塩を入れたり寝かしたりしていましたが、その理由と歴史的根拠を知ってすごく納得しました。レシピ本にはそういうことをなかなかどこにも書いていないのです。理屈聞かないと納得しない人なのです。
著者は日本でも有名なパン屋き職人です。第一次大戦のころ一般化した万能酵母「イースト」によってパンの歴史は大きく変わりましたが、それ以前の技法、細菌学を知らなかったのに手間のかかる天然酵母を飼いならしていた数百年前のパン職人に対する敬愛の心が読み取れて面白いです。僕の主要な読書テーマのひとつは「古い世界」を知ることなので。
「イーストが登場するまでヨーロッパの人は一つの大きなパンを一週間かけて食べるのが普通だった。スイスの山奥には、一ヶ月に一回しかパンを焼かない村があったぐらいです。それだけパンがもったのは、日本より湿気が少ないこともあるでしょうが、やはり天然酵母で作っていたからです。乳酸や酢酸が含まれるため、簡単にはカビが生えない。そんなに長持ちするパンをイーストで作ることは不可能です。」
ハイジのおじいさんが、山羊のチーズと木工品を持ってデルフリ村に降りて、でかい丸いカンパーニュを買って帰っていました。何日もかけて食べていたパンでしたね。
うちの近所に食事に会うパンを焼いている、とてもおいしい小さいパン焼き店があって、山に行かない土曜日は昼前にバゲットとカンパーニュを買いに行きます(バゲットはいわゆる長細いフランスパン、カンパーニュは鏡餅みたいな丸くてでかいパン)。焼き立てバゲットを家族3人で土曜のお昼に副采と食べ、カンパーニュを翌日以降食べます。平日は三食ほとんど米食ですから、週末のおうちごはんの楽しみに。
週一回顔を合わせる寡黙なパン屋ともなんとなく顔見知りになりました。で、ご主人とこんな本を読んだよ、パン屋もいろんなことを考えているんですねえと話しました。こういうお店は天然発酵種の世話もあるし一日18時間も働いているということも本で知りました。寡黙なパン屋のほうからも、いつもどうやって食べていますかと聞かれました。うちの場合は野菜や豆のおかずと共に、食事にあうパンとして食べます。お菓子パンはめったに買いません。
これまでパンを自分で焼くこともあったけど、説明書きに書いてあるとおり砂糖やバターを入れて、イーストもばんばん入れて焼いていたレベルです。はっきりいってパンをなめていました。著者も私も、こども時代はパンの質としては最も底辺のまずい時代にあたり、学校給食のおかげでパンはおいしくないものという出発点世代です。仕組みやバリエーションを知ると、無理やりふくらまさなくてもいいんだ、ということも知りました。まだ挑戦していない天然酵母の長時間発酵もやってみようかな、という気になってきました。
以下は自分のための読書備忘メモです。読んだ人にしかわからないかもしれないけど、へえ!と思ったことや、忘れたくないことのメモです。お構いなく。ついメモをとりたくなる本です。図書館から借りたので。
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エジプトに6000年前からあったパン、パンを膨らませているのは給料代わりに配っても日持ちがするから。膨らんでいないと粉々になってしまう。/中世には粉ひき施設も焼き窯も領主のところで税代わりに粉を払いながらしか作れなかった/粘りあるグルテン(タンパク質)を含む麦は小麦だけ。大麦、ライ麦、燕麦はない/19世紀末「イースト」の発明でパンの工業化/イースト=純粋培養酵母サッカロマイセス・セルベシエは選び抜かれた強力酵母/焼き立てを食べる文化はイーストで速く発酵できるようになって可能に。バゲットはそれに向いた日持ちしないけど焼き立てを楽しむパン/昔は丸いカンパーニュで一週間食べられるパンだった。/1960~70年代は欧州でもイースト全盛で天然酵母を使った時間のかかるパンは忘れられた。その後天然酵母の発酵パンは豊かな風味があり、手間はかかるが見直される。90年代フランスでは伝統的パン認証の法整備「デクレ・パン」/日本はパンが主食でないだけ、天然酵母で時間をかけて作った高いパンでも売れる/著者のパンは生地に大量の水を入れること、酵母をごく少量しか入れないこと、一次発酵は低温で長時間かけることが特徴/グルテンの膜が強ければ発酵のガスを逃がさずよく膨らむ/合わせて一次発酵で糖に分解されずに残ったデンプンはグルテンが作った生地の骨格の間を埋め、このデンプンが焼成のとき膨張する。「糊化」という。加熱時にも膨らむ/中東の原産小麦は日当たりが良いので光合成でデンプンがたくさん作れる。わざわざエネルギー効率の劣るたんぱく質は少ない。日照の少ない欧州は根から栄養を吸収してエネルギーを得る割合が多い。その結果タンパク質が多い。グルテンが増え、発酵パンが作りやすくなる。中東でなく欧州でパンが発達した理由/タンパク質が多いのが強力粉、少ないのが薄力粉含有量1.5倍違う/寒い北の小麦、ウクライナやカナダのものがタンパク質が多く良く膨らむ小麦。上に膨らまして伸ばす山形パンがイギリスで発達したのは植民地カナダがあったから/フランスや南ドイツの小麦はウクライナカナダよりも南だからタンパクが少ないから膨らみにくい。細長いバゲットは焼くときに全体に熱が伝わりやすい工夫。表面積が多いと乾燥しやすいから焼き立てをすぐ食べたほうが良い/イタリアはさらに少ないから発酵させずピザ生地にしてカリッと食べる/北ドイツのライ麦パンはグルテンがないから生地が膨らまない。目の詰まったモッチりしたパンになる、ドイツパンは粉の配合がうまい/機械でなく石で粉を挽くと熱くならないので残留酵素が生き残り発酵の味が全然違う。/イースト全く使わないパン屋はほとんどない。多くは天然との併用でそれで良い/天然発酵種は不安定で予測不可能なので工業化できないが小規模店ではできる/天然酵母は数日を過ぎると乳酸発酵が始まったりして味が不安定になる、こういうとき相対的に強いイーストを加え、暴走をおさえるというような使い方もある/カンパーニュは焼き立てを売らない。二日目や三日目のを売る。味も変わっていく。焼き立てばかりがパンじゃない。酸味が落ちていき、三日目か四日目が安定しておいしい。二日目まではそのままサンドイッチ、三日目からは焼く方がうまい、トーストや具財を乗せてオーブン、六日目硬くなってくるからクルトンにしてサラダやスープに。それ以上のは粉にして捏ね、イモや魚のすり身と団子を作ってスープに。/天然酵母の味はコントロールできないから面白い。/酵母菌は温度、pH、酸素、栄養量の条件で変わる、酸素が多いと呼吸して分裂し数が増える。酸素が少ないとエネルギーをためるため糖を取り込み体内酵素で分解(アルコール発酵)する、これがパンを膨らます/発酵をよく進めるには酵素が元気な小麦粉を使う。収穫したばかりの小麦、挽いたばかりの小麦、石臼で挽いた小麦、胚芽やフスマなど麦の外縁を含んだ小麦粉のほうが残留酵素が多い。酵母や乳酸菌も多い。だから発酵がよく進む。28~32度がよい/干し葡萄のレーズン種が一番易しい。/イースト発明前の日本の発酵種はなんと米麹とホップ種だった/8つの発酵種、レーズン種、ホップ種、パータ・フェルメンテ、ルヴァン・デュール、ルヴァン・リキッド、ザワータイク、Sブラン、パネトーネ種。与える香りで使い分ける。/著者のパンは水が多い。水は小麦粉に対し125%が前人未到の限界。一般的には80%が限界。生地がどろっとして扱いが難しい。一般的ではないがそのエッジに面白さがある。水が多いとデンプンの糊化が進み、断面がツヤツヤし食間もっちりする、発酵も進む、形を捨てて味をとる、一般的な加水なら20分だが一時間もこねることも、今は103%/硬水のフランスだから、グルテンの少ないフランス小麦でもバゲットが作れた。ミネラルが多いと発酵を促す/塩の役割はグルテンの網目構造を強化するので炭酸ガスやアルコールを逃がさない強い膜ができる。一般的には発酵を抑制する役割。塩を入れた生地は発酵を抑え糖分の消費が落ち生地に糖分が多く残る。パンにきれいな焦げ目をつけるのは糖分。/モルトエキスは発芽大麦を煮出して抽出した麦芽糖の濃縮エキス。デンプンを糖に分解するアミラーゼを多く含む。これを加えると発酵がよく進む。天然酵母を育てる時やパン生地にいれるもの/砂糖を入れないパンでは、デンプンを糖にしなければ発酵しないから、モルトエキスを伝統的にいれる/バターの役割:バターと砂糖は伝統的には入れなくても良いものだが入れるとしっとり感が長持ちする。グルテンの幕をコーティングして舌触りがなめらかになる。乳化剤としても働き水分の蒸発を抑える。いつまでもソフトな触感が保たれる。/生地をこねるのはバラバラに向いているグルテンの束を同じ方向にむけるため。そうして生じたガスを逃がさない強い膜を作るため。/加水が多いほど気泡が大きい、少ないほど緻密なパン/加水が多いとグルテンがつながりにくいのはサラサラでひっかりがなく伸ばせないから。水多めのときは二度に分けて加水する/パンチの意味は、捏ねて30分寝かしたらアルコール発酵で生まれた炭酸ガスが発酵を阻害するので、そのガスを生地から抜くためにパンチ(上から強く押したり叩いたりする)。生地に新しい空気を送り込むので酵母の増殖も盛んになる。でもそれはイースト大量で旺盛に発酵させた場合。発酵種少しだけならやさしく折りたたむ程度。/一次発酵の時の容器に入れる生地の厚さはパンに寄る。薄すぎるとガスが溜まらず膨らまない。/材料も器具もそう変えられる余地はないが発酵だけはフロンティア。生産性と逆行するから、まだ研究は尽くされていない。そこが著者の勝負したいところ。長時間発酵させて二日かけてパンを焼くなんて、大手には不可能。世の中のレシピは大手パンメーカーや製粉会社の技術的指導から抜け出せていないので一次発酵は未開拓のまま残されている。/長時間発酵によって遊離アミノ酸の量が3〜4倍増えて、旨味が増す。かめばかむほどおいしく、パンをツマミにワインが飲める。/長時間発酵には低温でなければ。普通は20〜30度くらいだが著者は10〜20度帯。店の狭さから18時間が限度。それで17度になった。/一次で長くとるか、成形後の2次で長くとるか/最低3時間。古漬けの味わい、発酵食品としてのパン。限度は10日?10度以下は未知の世界。10〜4度は前人未到/発酵パンを焼く窯は200~300度で1時間保てる部屋がいる。全方向から熱が生地に反射しふっくらする。生地全体を焼くには全方向から熱/生地をオーブンに入れると中の炭酸ガス、アルコールが気化して爆発的に膨らむ(窯伸び)不揃いな気泡はここでできる/オーブンの中でも生地の酵母は生きていて、温度が上がり爆発的に膨らむ。70度まで。1.5倍に。70度でグルテンが壊れ、ここでパン全体の骨格が決まる。このさき、デンプンが糊化アルファー化する、これでデンプンが食べられるものになる。お粥のようになって水分が飛んで固まる。焼成の後半はそれを待つ時間。/窯伸び10~15分、焼成20~30分。生地内部は最高99度、デンプン糊化は90度。/表面は100度越えて焦げる。150度でカラメル化して褐色に。/著者は高い温度でさっと焼く250~60度/焼く直前に蒸気をかけると生地の表面が糊化してパリっとする。表面が乾燥しないから弾力が出て生地が膨らみきる前に皮が割れてガスが抜けるのを防ぐ。大きな気泡のパンは表面が硬くないとガスが逃げてしまう。
ここがアルピニズムを感じる箇所です。p208
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「パンそのもの」を変えようと思ったら、もう発酵の時間と温度、酵母の量ぐらいしか触れる部分が無い。しかし、その分野はいまだ誰も手を付けていない。前人未到である事は分かっていても、その山のあまりの高さに怖じ気づいて、誰も近づこうとしない。リスクが高すぎる。だからこそ、そこに新しいおいしさ、誰も経験した事の無い食感が眠っているわけです。
私もたまにパンをフライパンで焼いてます。パン好きの人に邪道とおこられそうです。今年トルコの山の村に行った時、道端のあちこちにパン焼き場がありました。今でも現役で村人が共同で使うみたいです。台所にないどころか往来の激しい道にあるのがびっくりしました。井戸端会議ならぬパン焼き待ち会議してました。焼きあがった丸い大きいパンは、その場でお婆さんが売ってました。立ち食いするには大きいので諦めました。
パン、フライパンで焼けるんですよね。好きな探検家のH.W.ティルマンが、ライトエクスペディションでやっていたそうです。
トルコ人は街にパン焼きスタンドですか!おばあさんから買ってみたいですねえ!トルコのパンも、パキスタンのパンも、すごくおいしかったのを覚えています。
都心に住んでいた時、一時パン作りに興味を持って、代々木の日本製粉までパン講習を受講にいったりもしましたが、ここに来てからは焼いたことがありませんでした。
バケットもカンパーニュも100均で買ってました。天然酵母でもないのにカビの生えないメーカーのパンです。(笑)
日記を読ませて頂いてたら、久々焼いてみたくなりました。もう、習ったことも全部忘れているのでまた一からやり直しです。(泣)
タビさまならパン焼きの心得があるかもと思っていました。
パンは焼くたびに、季節や水の加減や発酵時間で調子が変わって、何度やっても安定しません。天然酵母でもないのに。プロは一定品質にするところが偉いところですね。
再び挑戦、粉と塩と水と菌だけなんだから、安いもんですよね。そういえば、青森のこども祭りなどで、1mくらいの竹の竿の先にパン生地をソーセージみたいに巻き付けて、焚き火で炙ってパンを焼く、棒パンというのがあります。あれを、山の焚き火でやったらいいかもしれないですね。
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