そういえば、福島について、まだ書いていないことがありました。元ジャイアンツの中畑選手。実は私は高校時代、彼と野球の試合をしたことがあったのです。郡山市の開成山球場で練習試合を1970年6月に。正確にいえば、私はまだ1年生で補欠の身分でした。サードで4番の彼は、強くないチームのなかで1人ものすごいスイングをする選手でした。
その中畑選手、実は東京電力の原発CMに出て安全性の宣伝をしてきました。でも、事故の直後、すぐに声を上げました。「いままで原発の宣伝をしてきて、福島の人のほんとうに申し訳ない」と。
でも、そのニュースを聞いたころは、まさか郡山市や福島市のグラウンドが、放射能汚染に長くさらされることになることは、予想もしませんでした。
(1)
私の郷里の福島市でも、45キロも離れているのに、校庭や児童公園などで土壌の放射能が基準を超えて、子どもの利用を制限するところが生まれています。
問題は、その基準です。文部科学省はその校庭・公園などで子どもを遊ばせた場合、年間被ばく線量20ミリ・シーベルトを適否を判断する「暫定基準」に決めています。1時間当たりでは、3・8マイクロ・シーベルト。
ところが、この値は、「計画的避難地域」の一般人(大人)の避難基準20ミリ・シーベルトと同じ値です。その飯舘村では、母子はとっくに先行避難しています。
原子力安全委員会が、いったん出して、撤回した校庭の目安は、10ミリ・シーベルトでした。安全委員会は、まず10ミリを撤回し、文部省側と見解が違っていたのに、要請されて会議も開かず、20ミリにOKしてしまいました。
比較してみると、医療現場など大人の仕事の場では、3ヶ月で1.3ミリ・シーベルト(年間では5.2ミリ・シーベルト)を超える場合、そこは「放射線管理区域」に設定する義務が生まれます。
被ばく線量を測る機器を付けて、被曝量を管理しなければならない。
大人が出入りする管理区域でさえ、5.2ミリなのに、子どもが遊ぶ校庭が、5・2ミリの約4倍の被曝環境でもOKというのは、かなりおかしい。子どもは、大人にくらべて、被ばくには一桁大きな確率で影響が出るのですから。
テレビで母親が「こんな状態では外で子どもを遊ばせられない」と話していました。
現状と、規則に即して、道理と一貫性のあるアナウンスをしてほしいです。
(2)
その原子力安全委員会が、計算間違いをして訂正しました。
現在も毎日続いている現場から大気中への放射能の拡散量を、4月5日段階で1テラ・ベクレル(1日当たり)としていたものを、154テラ・ベクレル(同)に変更しました。(テラは1兆)
セシウムの放射能量をヨウ素に換算せず、単純に足してしまったとのこと。
この件では適正な方に訂正したことは良かったと思います。
でも毎日154テラというのは、すごい飛散量です。
原発の事故としては、3ヶ月この排出が続くと、「レベル6」(スリーマイルはレベル5)に相当する分の排出量となります。
日々のこの値が5年続くと、チェルノブイリの水準に桁が迫ってきます。
実際に、現場から数十キロ圏では環境中の放射能は、下げ止まりの傾向がでており、一昨日の宇都宮市のように、一時的に上がる場所もあります。
半減期の長いセシウムなどが、土壌の環境放射能のベースになってきており、そこへ日々のわずかの加算があります。
安全委員会は、「現状も同様のレベルで推移しているとみられる」と見ています。建屋が壊れ、熱をもった内部の物質が外に拡散を続けている限り、汚染はいつまでも継続することになります。
(3)
3・11の震災のあとの、累積の放出量も、くわしい数字が出てきています。
3月15日までの累積放出量 19万テラ・ベクレル。
4月5日までの累積放出量 63万テラ・ベクレル。
これは大気中への分だけです。海は別。
3月16日までに大部分が放出されたと、10日ほど前に発表されたばかりばかりだったのに、実は、月末にかけても、4月になっても、事故直後に匹敵する放射能が排出され続けたことになります。
何度も思い返すのですが、私は3月12日の夜に、南相馬市の姪ファミリー(4人家族)に、「すぐにまず福島市の実家(45キロ)へ避難し、状況をみて子どもといっしょに県外へ」と連絡しました。
前後して、私の友人も家族の避難に移りました。
福島県民は、危険を察知して、いっせいに避難が始まった。
新潟県の避難先には、原発で働いていて、退避指示が出た関連会社の方もいて、防護服を脱ぐ間もなく逃げ出したなど、現場の混乱の模様を証言していました。
「ただちに人体に・・・」とか、「落ちついて」とか、「デマに惑わされるな」などと言われ続けた。けれど、結果的には、いっせいに避難をすすめたことで、多くの子どもたちが被ばくから守られたのだと思います。
何しろ1ヶ月たって初めて、あのとき飛散していた放射能量は、「レベル7」だったと確認されたのですから。そのとき放出された放射能は、いまも土壌に残り、高い数値が検出されています。
本来だったら、放射能の影響は大人と子どもで相当に開きがあるのですから、乳幼児のいる家族を数十キロ圏にまず退避させるのを優先させる。次いで動けない患者やお年寄りには、独自の掌握と移送先をふくめた計画をもつ、などのことが必要でした。
災害への備えを一般的にするのではなく、原発防災計画として用意しておくことが、これからは必要になります。
(4)
住民への的確な情報・警報の基盤になるのは、現場と周辺の放射能のモニタリングと、その公表です。
ところが、これがひどい実態です。
斑目・原子力安全委員長いわく。「保安院に3月21日と27日に項目まで示して求めたが、まだデータをいただいていない」。
保安院は、「東京電力に求めている」(4月22日の国会証言)
放射能の測定データで肝心な場所は、
各建屋の排気塔、建屋周辺、敷地内のモニタリング地点などになります。
そのデータがあって初めて、飛散する放射能量を推計し、気象条件に合せて各地の汚染の推測も行なえます。
それが、国側に提供されていない。
現況をつかみ、住民をまもる対応を計画するうえで、大前提のことだと思います。
世界の声もきびしい。チェルノブイリ事故25周年の国際会議でも、福島第一原発事故について「情報の提供が遅すぎた」などと日本政府や東京電力を批判する声が相次ぎました。
アメリカ政府のエネルギー省は、航空機も使った独自のモニタリングから、80キロ圏までの精密な被ばく予測図を公表しました。「日本政府が公表した予測図には、20キロ圏内の累積線量値や1〜10ミリシーベルトの低線量の被ばく範囲は示されておらず、米側の方が精緻な内容だ」と評価されていますが、日本政府と東電の情報公開の立ち遅れが、ここでも際立っています。
避難する住民、汚染された地域で暮らす市民の立場に立って、的確で迅速な情報の公開をお願いしたいと思います。
(5)
「週刊情報6」で、東電の「収束への工程表」には、
1)放射能が人間の作業を阻んでいる困難さを直視していない、
2)汚染水対策も、作業人員も、求められる対策の規模に用意がまったく見合わない、
という2つの問題を上げました。
この2つはその後の経過でまさにかなめの問題になってきています。
この1週間でちょっと心配だなあと思わされたのは、いざというときの安全チェックを行なわずに、緊急避難的な「賭け」が出てきていることです。
1号機の格納容器に、どんどん水を貯めてついに7000トンを注入。事実上、水棺状態にしてしまったのが、その一つです。
この水は、圧力容器に注いだ冷却水が、漏れ出てきたものです。
格納容器は、下部に分離されている「圧力抑制プール」以外は水を貯めることは、想定されていません。西山審議官も、「耐震性をチェックしないと」と「ただちにOK」はしてこなかった問題でした。
なにしろ格納容器は、高さ30〜40mもある巨大なフラスコ。なのに壁の肉厚は3センチしかありません。鋼鉄の風船みたいなものです。
もちろん、内部で気体が瞬間的に増加する熱膨張が起これば、圧力増大の衝撃を緩和する気体が少ないだけに、フラスコは壊れやすい。
1号機の格納容器は、窒素を注入してもついに圧力が元にもどってしまうほど、地震で損傷が起こっています。結果的にほぼ満杯近くまで水を貯めてしまって、余震で揺さぶられたら、どうなるのか?
けっして意図して貯めてきたのではない。
ほかにタンクがなかっただけです。
それで危険を冒している。
それに圧力容器も、格納容器も、水漏れ個所がある以上、いくら水を貯めても、「循環式の冷却サイクル」を構成することはできません。
4号機などの使用済み核燃料プールの損傷も、同じく心配です。外からの映像では、建物を支える外壁が、かなり飛んでいます。
水を注入しないと煮立ってしまう。しかし、加えると今度はプールが壊れる危険がある。
2号機の汚染水は、どんどん増えていて、廃棄物建屋にいくら移送しても、量は減らない。屋外に仮設タンクが設置されるのは、来月末・・・。
これも、のるかそるかの「賭け」のようなことをしないで、排水場所の掘削工事や緊急のタンカーなどの手配をしないと、また海に流れ出してしまいます。
いずれも、しっかりした見立てと、対策の安全性の検討の形跡が見られません。
1社で考えているから、上に挙げた対応の規模の小ささが出て、そこから成算のない対処が続いているのでは、と危惧します。
収束はとても見えない。
余震がないことを願うしかありません。
屋外にまで新たな飛散が起こるのは、余震と一体のときの可能性が大です。
正常なときは、多重防護システムらしきものがあったといえますが、今の福島原発は、命綱らしきものも見当たらず、地震でも、台風でも、自然崩壊でも、きつい状態が続いています。
福島大学放射線計測チームの放射線レベルマップを見ると、福島市までけして住みたいと思わせるところではなくなってしまいましたね。
http://www.sss.fukushima-u.ac.jp/FURAD/FURAD/data-map.html
悲惨な状況が何年も続くという可能性が決して低くないわけですが、そうなると国際社会における世界地図から日本が抜け落ちる心配をせねばなりません。
情けなや・・・
dari88さん、福島大学の放射能強度マップは、各ポイントの地道な測定の積み上げで、作図したものですね。
相当な労力をかけたもののようです。
これに加えて、現場からの飛散量と、気象条件とから、日日の飛散量の予報が出ると、野外活動の安全判断の情報に使えると思います。
このマップでは、須賀川市、郡山市、本宮市、二本松市、福島市に北上する、もう一つの汚染回廊を指摘しています。
野天で栽培された原木シイタケに、基準を超える放射能が次々に見つかっているのが、この回廊地域です。
たしかに、現況は、子育ても、それから子作り(生殖細胞の遺伝子の破壊や遺伝的影響の可能性)も、やりにくい環境になってきていますね。
福島市に定住している私のもう一人の姪(ビオラ弾き)は、実はもう結婚していて、新婚ですが、未来図が描きにくい。
地元の病院長が2週間前のNHK特集に出ていて、「家族に影響が及ぶ。長期的な医療のフォローを」と発言していました。
日本は、事故の最中のデータが公表されないだけでなく、事後のアフターケアの追跡と疫学的な検証も不備に終わるのでは、という危惧があります。
40キロ超では、避難しなかった家族も多くいます。20年先までの追跡が必要です。
農業団体が本社に行っても、また福島県知事が要請しても、社長さんらがあいまいな返事で通してきたのは、こういうことだったのですね。
賠償額は今年分だけで数兆円になろうとしています。
「異常に巨大な天災地変」を理由にすれば、法的に免責される、少なくとも長期の裁判になる・・・。
「会社は、法律を守って、その義務の範囲でやってきただけ」、「甘い安全基準を定めて、審査した国が悪い」ということでしょうか。
でも、様々な努力をすすめてきても、不可抗力、または対策が不能な場合に、「天災」を理由にできるのではないでしょうか。
東京電力は、地震学者が耐震設計指針で見直しを求めてきたことも知っていた。
福島の地元でも、津波に不備の要請があったのに、断ってきた。
もし、事故は不可抗力で、できるかぎりの安全対策をとってきて、なお事故になったのだったら、地震国・日本に原発はおけないことを、東京電力は認めたことになります。
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http://www.asahi.com/national/update/0428/TKY201104280255.html
以下、引用です。
福島第一原発の事故に絡み、福島県双葉町の会社社長の男性(34)が東京電力に損害賠償金の仮払いを求めた仮処分申し立てで、東電側が今回の大震災は原子力損害賠償法(原賠法)上の「異常に巨大な天災地変」に当たり、「(東電が)免責されると解する余地がある」との見解を示したことがわかった。
原賠法では、「異常に巨大な天災地変」は事業者の免責事由になっており、この点に対する東電側の考え方が明らかになるのは初めて。東電側は一貫して申し立ての却下を求めているが、免責を主張するかについては「諸般の事情」を理由に留保している。
東電側が見解を示したのは、東京地裁あての26日付準備書面。今回の大震災では免責規定が適用されないとする男性側に対して、「免責が実際にはほとんどありえないような解釈は、事業の健全な発達という法の目的を軽視しており、狭すぎる」と主張。「異常に巨大な天災地変」は、想像を超えるような非常に大きな規模やエネルギーの地震・津波をいい、今回の大震災が該当するとした。
一方、男性側は「免責規定は、立法経緯から、限りなく限定的に解釈されなければならない」と主張。規定は、天災地変自体の規模だけから判断できるものではなく、その異常な大きさゆえに損害に対処できないような事態が生じた場合に限って適用されるとして、今回は賠償を想定できない事態に至っていないと言っている。
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