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御岳山は山頂部に立つと、平時でも数百m離れた噴気口から水蒸気が継続して噴出しており、元気な火山という印象でした。数年ごとに水蒸気噴火を繰り返す活動的な噴気口が、大勢の登山者が時間をすごす山頂=山小屋の至近距離にあるという、独特の条件にある山でもあります。
地震・火山列島の日本では、各地の「名山」の多くは活動的な活火山です。登山者にとって火山は身近なものです。今回のような無防備すぎる災害を繰り返さないためにも、私は、以下の点で登山者や山岳関係団体が声を上げて行く必要があると思います。
(1)火山活動の情報は、比較的小規模の噴火でも多くの人命が失われるなど、当の火山の現場の条件を考慮して発してほしい。
――同じ活火山でも現場の条件、生命の危険は火山ごとに大きく違います。御岳山は、小規模噴火でも多数の犠牲者が生まれうる条件にある山の一つでした。こうした条件にある火山のは場合、またそこに多数の登山者が集中することが想定される場合などは、そうした条件等を考慮した情報提供・注意喚起をすすめてほしい。
(2)「火山警報」以前の段階で出される気象庁と予知連による「解説情報」は、気象庁のWEBサイトに掲示されているが、観測・注意情報の制度を知った人でなければ、たどりつけないほどの目立たぬ扱い。
http://www.data.jma.go.jp/svd/vois/data/tokyo/STOCK/kaisetsu/CCPVE/kansoku/kansoku_houkoku.pdf
この情報は、当該自治体に通報されるだけで登山口や山小屋で利用されることもない。現行の「解説情報」「警報」の発し方と内容を抜本的に改善してほしい。とくにレベル2の警報を出す条件を見直し、「噴火の恐れ」の判断に迷う場合や、あるいは「前回噴火いらいの現象の把握」などの段階で、すみやかに注意報・警報を出し、登山者と住民に伝達、注意喚起してほしい。
報道機関も天気予報だけでなく火山の情報、注意報の伝達に心を傾けるべし。
――同じ予報でも、気象情報の場合は、注意報、警報は恐れのあるときに頻繁に出されている。また登山者も情報にアクセスしやすい。
ところが火山の場合は、今回は、7年ぶりの地震活動の活発化がとらえられていたのに、登山者に届きませんでした。
3回出された「解説情報」も、登山口や山小屋で生かされなかった。小屋に待機しただけでも助かった人がいたし、高校生ら17人パーティーも事前に「解説情報」に接していれば、登山を思いとどまったり、安全な装備や行程を検討することもできた可能性があります。
噴火か否か、即断できなくとも、前回噴火いらいの「異変」が起こっており、気象庁と火山噴火予知連とが、その推移に警戒・注目していることが、あらかじめ情報として伝えられれば、登山者の側では登山の実施の再検討、パーティーの構成や装備面、ルートの検討など、いろいろな対応が可能です。
(3)根本的な問題として、火山観測体制の弱体化、担当係官減らしがある。日本列島の地殻変動が新しい段階にすすんでいるいまこそ、監視体制を後退させるのではなく、抜本的な充実を求める。
――2009年に、110の活火山のうち47火山を「観測体制を充実する火山」と決めたのに、その大半は一部機器のテレメトリー監視(全国4つのセンターにデータ送信)だけで、この体制も観測機器の設置・更新の途上だった。各地の管区気象台では、5人の職員が24時間2交代で、これもテレメトリーによる監視を続けています。
また大学の独立法人化で予算が減らされて、専門研究者が監視・観測を担当する火山も34火山から5山、研究者数は全国で40人程度までに減らされました。
そのため、今回の御岳山の場合も、異変があっても現地での要員と機材の投入へ進めず、噴火前日から当日にかけて傾斜計がとらえた山体の膨張も、噴火後に確認・報道される結果になりました。
(観測体制に「穴」があったことは、その後も明らかになってきています。
御岳山では、合計13箇所に地震計が設置されてきました。気象庁の2基の地震計のうち、1つは、地表に設置されてきたため、風などのノイズが多いもの。名古屋大学、長野県、岐阜県もそれぞれ地震計を設置してきました。2県が設置した5カ所の地震計のうち、3カ所が、噴火時は老朽化や、電源確保ができないなどの事情で、動いていませんでした。停止していた3カ所のうち1つは、火口直近の山頂の地震計でした。)
今回の犠牲者は、余りにも多すぎます。問題は、情報提供とそのための火山の監視という点で、いまできる万全の対策がとられて、今度の結果が生まれてしまったのではないことです。
観測体制の問題では、火山性地震の増加の段階で、「機動観測班」(全国を4カ所の監視センターに置かれている)と観測機器を現地に送り出し、地温と噴気の観測、硫化水素ガス測定等をすすめるべきでした。その体制をとれば、1週間余りの活動期間のなかで、地震計の不備などを補う観測や、傾斜計が示した噴火前日から当日にかけての山体膨張も、現場でより総合的に検討された可能性があります。
噴火は火山ごとに、その予兆にしばしば個性やクセがあり、サインも異なります。事前の監視に穴があって、その予兆のサインを得られなければ、数年から十数年後にくる次の予兆もゼロからの監視になってしまいます。
このままの監視体制では、富士山をはじめ、全国の火山監視が心もとない。
地震・火山列島は、いま動乱の時期にさしかかっている。火山のそばで暮す地元の方々と、登山者に的確な情報を提供できるように、火山の監視・観測体制の充実とそれを基礎とした研究・監視の発展を望みたいです。
10月4日追記
今朝の6時台のNHKニュースで、私も以前にお話をうかがったことがある北大の岡田先生が、「地震が検知されているのに、レベル1のままでは平常、なにもないという(警報の)ままになるでしょう。それではいけないんです」と語っていました。火山ごとの予兆の特徴に即して、警報をださねばならない、とも述べていました。まったく同感です。
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