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現役の山岳部員だった頃に、当時未踏峰であったウルタル�曲�(7388ｍ)のことは、高所登山に皆目興味の無かった私のような門外漢にも知れ渡り意識されるレベルの話だった。
1996年当時の未踏峰は高い方からナムチャバルワ(7782ｍ)と「龍の国」のガンケルプンスム【Gangkhar Puensum】(7570ｍ)で、ウルタル�曲�は第三位だった。
未踏峰と言えば「日本山岳会関西支部東ネパール登山隊2016」が、ネパールのヒマラヤ山脈にある未踏峰ナンガマリ�曲�(6209ｍ)への登頂に成功した報が入った【9/18情報】。サミッターは9人とあったので茂木さん、登れてるといい。
ウルタルの話に戻る。ミック・ファウラーと共にスパンティークの北西壁ゴールデンピラーを「美しく」初登したビクター・ソーンダンスに「あの山には解が見つからない」とまで言わしめた難峰に、1996年に日本からの登山隊三隊(カトマンズクラブ隊、山崎-松岡隊、ウータンクラブ隊)が挑んでいた最中だった。尚、ソーンダンスとは別働隊で南稜から目指したファウラー自身すらも撥ね付けられている。
この山は、かの長谷川恒男・星野清隆両氏が墓標としたことでいやがおうにもその名を上げた。なお、ハセツネは生前「私は岩登りで落ちて死ぬことはない」と明言したそうだが、雪崩に遭い死亡とは返す返すも悔やまれる。
そして称名滝【93dieライン】を中尾政樹氏と共に登った黒川溶三郎氏もその翌年に南稜で墜死している。
そしてまた遂には初登を果たした山崎氏までをこの山は召してしまった。
難攻不落のこの山にアルパインスタイルで挑んだ二人は、試登することも無く初見一撃登頂という空前絶後の快挙を成し遂げた。ABCから山頂まで実に9日間を要し、下山時にスノーピーク6300ｍで嵐に閉じ込められ結果、16泊17日！ 飲まず食わずの極限状態を耐え抜き二人は下山するものの、彰人氏はABC内で体調が急変し死亡。当時は初登頂後の、謎の急死とされたが、今では死因は症状から胃穿孔と推測されている。
★山崎彰人；1967年愛知県生まれ。1986年丹羽高校卒業(チョモランマ貝探し登頂の澤田実氏は一年後輩)。一浪後に岐阜大学工学部入学。未踏峰の登頂に拘りを持ち続け雪蓮南峰、皇冠峰(クラウン7295ｍ)、麒麟峰(チリン7091m）と次々に初登頂した。そしてウルタル�曲�すらも手中にする。高峰の、それも未踏の山に歓迎された奇特な人だった。（この人といい、澤田氏といい、外道舐め太郎氏といいまた大西良治氏といい、この愛知北西の一地は何故に斯くも登山界で跳び抜けた人物を輩出するのだろうか？）
以前登場の石氏が昼休みに体育館で一緒にバトミントンをしたことがあるとの情報も得ている。
第二登は、偶然にも先日夕刻のドライブ中にyoneyama氏に謹呈本の御礼電話を掛けてきた堤信夫氏を含む高橋堅カトマンズクラブ隊！
高橋堅氏はそもそも弘前大学山岳部出身で、1980年に初めてこの山を目の当たりにして以降、86年に始めたトライアルから10年越し五度目の挑戦で、僅か20日遅れの第二登となった。しかし御本人は、悔しさよりもむしろ賛辞を送っているところが泣かせる。この困難な山を共に舞台とした連帯感に由来するものだろうか。
この山に纏わる話は、それこそ興味を惹く点が余りに多くて書き切れない程だ。
勿論、ヤマケイや岳人誌にも載った。
星野清隆氏の夫人が富士山で滑落した際、それを止めたのが彼らだったという信じがたい因縁については佐瀬稔氏の「残された山靴」【第七章 死の山・いのちの山 ウルタル】に詳しい。
報告書兼追悼集「さくっと登ってきます」は、実に読ませる。追悼集部分を読むと、この人物が如何に愛すべき強烈な性格だったかが炙り出される仕掛けになっている。何度読んでも引き込まれる。
後に中垣大作・山野井夫妻トリオが登ったレディースフィンガーのアプローチで岩雪崩により亡くなったパートナー松岡清司氏の追悼集「カラコルムに消えた若き星」もある。この人はNHKに映像も残っている。松岡氏の、歳上の隊長に対しても強気で対等な発言をする態度も、成功の一要因だったのではと感じた。
亡くなる直前にお会いできたカラコルム通の原真氏にイの一番に伺ったのはウルタル・サールのことで、氏によれば以前から未踏峰として意識されてはいたが、山として見て目立つ山ではなかった為に登攀対象として考えたことはなかったとの話を聞けたのは幸いだった。
松岡氏が熱望したあの南東ピラーへ佐藤裕介君が挑戦する際に、この壁を最初にアルパインスタイルで手掛けた前出V.サンダース氏とピオレドール賞の会場で会った話、近年アラスカやパタゴニアで活躍著しいコリン・ヘイリーの南東ピラーへのトライアル。
関連書を読めば、この山この人に纏わるドラマ群に「はぁ〜」と嘆息するはず。
まずは佐瀬氏の「残された山靴」を。
彰人氏の亡骸の灰は、山崎夫人の希望で本の裏表紙に写るインダス川に流されたという。
残された娘さんも、初登頂劇前年の1995年生まれとあるので今では二十過ぎの御嬢さんのはずだ。
御夫人は遠くもないところにお住まいなので、同じく山を志した者としていつか線香をあげに伺えたらと思っている。
サクッとはいいね。
ナムチャバルワの初登は、僕の行った翌年の、1992年です。ウルタルでハセツネが死んだ話は、現地で聞いた覚えがありますよ。
それは91年ナムチャバルワ撮影時のベースで聞いたということですね。中にはハセツネ御本人を見知った方も居て感慨に浸ったことと思います。
池田常道氏も書いています。「ヒマラヤ広しと言えども7000ｍ峰の初登攀がアルパインスタイルで果たされた例は、1980年のコングールなど数例しかない。ましてこの山のように困難なルートからは。」
この登攀劇は内容が凄まじ過ぎ且つ松岡氏の報告文がアッサリとし過ぎていることも手伝って、社会的理解が及んでないのではと推察します。佐瀬稔氏の読ませる文章にしても核心には迫り切れてはいないと感じます。何度読んでもドキドキする。
なんとなく、検索していてこちらの記事を見つけてしまいました。
一緒にクラウン峰を登りました。
確かに破天荒な人で、本人の遺言なのか、お葬式はずっとビートルズが流れていたのも思い出しました。
山岳界において貴重な二人が亡くなってしまったと思っています。
弥勒様
コメントに感謝します。
クラウン峰は総隊長の湯浅氏以外は全員登頂されているはずですので弥勒さんも当然サミッターですよね。七千の未踏峰、素晴らしい経歴に思います。
日記で書きたかったのは、ウルタルに纏わるすべての件が何か不思議な操り糸で取りまわされているような感覚を、第三者である私が受ける点です。佐瀬稔氏も流石に上手く書いていると思いますが、それ以上の物語を多く含んでいる、一連の話です。岳界にとって、亡くなったのが本当に惜しまれるお二人です。
一つ質問させて下さい。同行の亀田氏というのは現在岳人誌でカメラマンとして活躍されている東海大学探検部出身の亀田氏(同姓同名)とは別人としてよろしいでしょうか。服部文祥さんの話によれば、年嵩に食い違いがあるので。
はい、亀田氏は同姓同名で別人です。
実質の隊長である徳島氏の雪連峰の遠征でも山崎さんが活躍しており、その山崎さんと松岡君がクラウン峰を終えた帰路にはもう次の登攀について話していたのを覚えています。
山崎さんとは、私がクラウン峰のメンバーとして顔合わせする前に、お互いの山行後の温泉の湯船で偶然に話をしていたこともあったのを思い出しました。
いろいろ繋がっていたんですよね。
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