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旅の途上の彼方此方で擦れ違った方たちの名前住所が目の前に現れて、椅子にズブブと腰掛けて懐かしく目を通した。
の、パート3。
エジプトはカイロの安宿で三月頃に出会ったと記憶するが、今回登場の山城正市氏は当時五十がらみのオジサンで、小柄ながら眼光に鋭さがあり且つ博識で、とはいえ話してみると気さくなところもあって食事を幾度か共にした。職業は特殊なエンジニアと自称された。
話せば氏は、今までに180近い国々に足跡を残しており、世界全ての国を訪れることを目指しているとの事だった。
今思うと、へぇ、それが何?とも思えるけれど、旅の空の下でそんな話を聞くと「スゴイっすね」になる。
世界の国の数は基準によって193ヶ国とも196とも324ヶ国とも言われている(今現在)けれど、当時の氏のカウントがどれを採用しているかは定かに無かったが、ゴールはそう遠くは無いとのことだった。「いつまでも増え続ける性質のものだから」と御本人は自嘲気味に笑ったものだったが、目標の完遂に向けて、今回の旅行も9月まで続くとの事だった。
この山城さんが私の様な凡庸な人間と滞在時に付き合ってくれたのは、何を置いても「グルジア」だった。
180ヶ国斬りの氏も、この国には足を踏み入れていなかったのだった。
グルジア、2015年以降の今はジョージアと呼称するそうだが、相撲やオリンピックの場でそういわれても違和感がある。
旧ソビエト連邦の最高指導者であったヨシフ・スターリンの出身地である、というのはウィキペディアの受け売りである。
グルジア文字、如何にも可愛らしい。
先に書いた「藤代」氏との縁で入国適った当時の彼の地は1995年11月シェワルナゼが大統領に就任直後、1991年12月にソビエト連邦の解体により独立して数年で、社会主義から解放されたはいいが元手も無い中でどう自由な経済活動を行えばいいのか皆目見当もつかないといった風情で、皆右に倣えで「キオスク」で商売するのが関の山だった。
1993年の内戦の名残で国内避難者が長期宿泊するかつての高級高層ホテルはさながら巨大お化け屋敷の体であったし、停電アリ断水アリで旅行者を迎える体制も全く敷かれておらず、旅する側としても私のように歴史にも文化にも大した思い入れの無い人間には何ら面白味の感じられない国だった。これでは世界遺産双六のオバちゃんと何ら変わらない。
首都トビリシ(ティフリス)では、かつて1962年にベニー・グッドマンが一流のジャズメンを引き連れてアメリカからソ連への文化使節団として訪れた際にこの地で演奏会を行った事を想って感慨に耽った。
また、トルコへ戻る道すがらに、エルブルースだろうかヨーロッパ最高峰が夕照の中で白く浮かんで見えたのが印象的だった。
この方との手紙の遣り取りは随分と続いた。異国の地から届くそれら絵葉書は、病的ともいえる細かな字でビッシリと旅行先の様子、歴史風俗、個人的所感等々で埋め尽くされていた。
そして後に、情報提供頂いたグルジアにも行ってきました、と律儀な葉書も届いた。
この方との遣り取りで特に印象的だったのが、彼の地の国民的画家『ニコ・ピロスマニ』のことだった。
私のこの放浪の画家についての知識は旅行後の後付けに違いないけれど、アンリ・ルソーを想起さす不思議と印象に残る画風で、独身当時はエゴン・シーレと共にフェイバリットの一人だった。
こんなにもマニアックな画家を氏も好きだと仰り、あるときピロスマニ葉書「赤シャツの漁師」を送って頂いて、暫くの間部屋に飾った。
この画家については映画も制作されているが、流石の蠍座でも上映は無かった模様。でも、定期発行「蠍座通信」の何時ぞやの冊子挿画にピロスマニの絵が採用されて感心したことがあった。確か「小熊を連れた母白熊」だったと記憶する。
かのパブロ・ピカソに「私の絵をグルジアに飾る必要はない。なぜならピロスマニがいるからだ。」と言わしめる画力が彼の絵には宿っている。
この素朴な絵の群れが私に訴えかけるモノは一体何なんだろうか?
同じようなことを考えつつ、山城さんも最後の国を目指して旅を続けている事だろう。
この駄文をもし読むようなことがおありでしたら連絡下さい。
「病的ともいえる細かな字でビッシリ」の人、いますね。知ってます。
「歴史にも文化にも大した思い入れの無い人間には世界遺産双六のオバちゃんと何ら変わらない」ってこともあるけど、激動期の旅行は後から貴重に思い出すこともある。旅に価値をあたえるのは歴史や文化の知識や想像、これは間違いないね。
ジョージアよりグルジアの方がコーカサスっぽい気がする響きなんだけど、現地の音はジョージアなのだそうですね。この辺りのアブハジアとかナヒチェバンとかの民族モザイクは凄くてね、地図と民族図見ているだけで楽しいですよ。
小さな地域で独自の文字を持っている地域は、インドシナとコーカサスです。グルジア文字、アルメニア文字はカワイイです。
この画家の感じはピカソよりもメキシコの壁画画家に近い気がします、ディエゴリベラやシケイロス。
旅行中、安宿で絵葉書に書付けていると、空白無く埋めるように書く癖が付きます。
以前米山さんが書いたイスタンブル旅行記は、歴史的背景から実際の旅行時の印象から風景から「書き切っている」感じを受けました。
グルジアは文化の要衝で歴史深く、宗教民族の入り混じり故の紛争も多い様です。
文中にあるベニーグッドマン楽団のディスクはレコード所有だったのでしたが、調べると近年ボーナストラック付きでCDで再発された報を知り土曜に注文、今朝月曜に届いていました。思えばコレ、米山さんに車中で聞かせて「素敵な貴女」をすぐに当てましたね。
ディエゴリベラやシケイロスについては不勉強にして知りませんでした。確かに以前名古屋市立美術館で観たフリーダ・カーロ的にも見えます。
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