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今西 岳(仮名)、30km離れた池田町から片道1時間掛けて出勤していた。四〇代未婚で、ここへの就職当初は近郊への引っ越しを考えていたようだったが、母居らず同居する親父さん(学校の先生？)との関係からそれも適わず、今日まで通い続けた様だった。
以前は静岡で山仕事をしていたそうで、架線集材の経験もある触れ込みでの転職だった。兄と一緒に仕事をしていたとも聞いたが「京大出、いや兄弟で一つ仕事をするのは難しいっすわ」とのことだった。
私が現場作業員から事務所に移ってから入ってきた人間で、現場日報から辿ると2013年夏頃だったと記憶する。
調べたら記憶の通りに【2013.8.10〜】だったので、3年半の短い期間だった。
現場で見掛けたところ、伐倒については全然伐れる感じには無かった。
その二つ年下の今西と私とは不思議な縁があった。
聞けば、大卒後に海外放浪を経験しており、時期こそ違えど私の見知ったユーラシア大陸での重なりが多くあった。
また、札幌の「蠍座」に頻繁に足を運んでいたことも共通で、大学では映画研究サークルに籍を置いたとか、置かなかったとか。
その大学だが、まず岡山理科大に入ったけれど意に沿わなかったこともあって退学後、再受験して札幌近郊江別にある酪農学園大に再入学し、そこから札幌まで映画を観に来ていたと。ビールが好きで、その醸造の仕事にも就いたことがあると話していたところを見ると、学部学科はその関係だったかもしれない。
話せば、過酷な労働の毎日で何が心の支えになっているかと問えば「日曜に姪っ子と遊ぶことっすね」というので、一度拙宅にビールのみに来るとイイと呼んだことがある。けれど、私のリードが不十分だったか、子供と遊び慣れているという割にはウチのチビッ子供達と上手く絡めずあまり美味しいビールにはならなかったなぁ。
現場から戻ってきて事務所で迎えて話すと、今西が持つ林業情報も割合まともで弁が立つこと、林業に関わらず豊富な知識を持ち合わせて放っておけばいつまでも語り続ける。（この会社って、何でこう頭のキレる人間が不思議と集まるのだろう。凡夫の私としてはやり難いことこの上なし）その終着点が夢も無い悲観論で終わるところが、これまでの旅や仕事、女性人間関係等々人生で積んできた経験則だとすると些か寂しい感がした。
「林業なんてもう、終わりっすよ」
何て軽口叩くもんだから、日々勉強中で少しでも明るい場所へこの仕事を持っていきたいと常々考えている身からすれば「何をこの若造は」と思って反駁を加えたりもした。
自分が属している業界について知る人からすれば、テレビや新聞から伝わる情報の荒さ拙さ、将又人受け好く耳障り好く一面的にしか報道されていないことは理解されることと思う。
林業業界の現状把握はできているか？
林野庁の思惑をどう分析する？ 林業行政の方向はここ近年でも風向きによって随分と変わっている。
県林政部は限られた予算を何に重点配分しようとしているのか？ 事前申請方式ってご存知か？
抱える問題に森林組合や一林業事業体である弊社がどう対応するのか？
作業道は？ 高性能林業機械は？ 架線集材？ 何処に出材する？ どう造材する？
東京五輪、名古屋城天守閣再建への需要見込みは？
森林認証制度の国内動向は？
獣害は？ 更新できているのか？ 過伐では？
カスケード利用は？バイオマス発電だ？
今西には、この多面的な林業界の動向を語るなら今起こっている生データを選り好みすることなくすべて採取収集して総合的に判断してゆかないと明るい展望なぞ到底見えてこない、そんな中で今の私には多少なり光は見えてるよと話した。
貴君の大学先輩である新谷暁生氏がその著書『北の山河抄』でこうも言っているんよ。
★「知識で空腹を満たしてはいけない。経験こそが知恵と心の豊かさを生む」
エエ事言うよなぁ。
今西に限った事でもないけれど、少ない経験を盾に知ったような口をきくのは余り褒められた話に無い。
以降、それでも相変わらず楽観する気配も無く、現場での軋轢あり、切創あり、疲労アリ、文句ありの日々だったようで、昨夏から私の家庭事情もあって接する機会もとんと減った。
私も現場経験を持っているから理解もする。
仕事の過酷さで、帰宅して洗濯廻して飯の準備風呂のマワシしていると知らぬ間に寝入ってしまうことや、何とか翌日の弁当まで作っても弁当ガラを洗う暇もないこと。日曜何て月から土までの仕事後の片付けするだけであとは寝て終わってしまうこと。文化的行為何てとてもぢゃないができない日々であること。風邪など引こうものなら一週間寝てても治らずに、半端な身体で仕事に出掛けようものなら状況は更に悪い方向へ。中越さんの下で仕事をする難しさ（先週も怒鳴り合いの喧嘩を現場でしていたのを私は知っている）、随分な人間があの方の下から去っていったこと。
私は嫁サが居たから何とか廻せてきたものの、独身で家庭の手助け無くこの仕事を続けるのは無理だろう。
辞めていった今となっては、労い言葉を掛けてやりたい。
そう思って好きなビールを用意しておいたのだが、結局今日は悪天で休んで来なかったのだから渡せもしない。
この仕事の面白さを少しでも理解しているならば、また別の事業体で木を伐ることもあろう。縁あればまた会うことも。
事務所のオバサン優子氏が「今西さんって、お爺さんが辞書(？)に載る有名な学者さんやったらしいよ。品のいいところあったでねぇ。」
「え？ 何て人って？ 金田一京助とか？」
って、話しながら私が苗字「今西」で薄ぼんやりと浮かんだ顔がクッキリと認識され理解するより早く出た言葉が
「今西錦司ぢゃぁないよね？」
「ああ、それそれ。キンジさんで当っとる、当っとる。」
キンジサン！ ニノミヤキンジロウみたいに言うし、このオバチャン。
◆今西錦司(1902-1992)；京都帝国大学農学部農林生物学科卒業、理学博士。哲学者西田幾多郎が創始した京都学派の一人にも数えられ、私の説明なぞ要さぬほどの超の付く大物である。「そこに山があるから私は岐阜大学に行くのである。」との言を残して第4代岐阜大学学長を1967〜1973年の間務めた。
今錦の縁者だったか？！ ええいっ？！
言われれば、若かりし今錦の写真に似た所あり。
恵迪寮には西堀栄三郎の孫も居たなぁ、イナバさん。
貴君には再度この言葉を贈ろう。
『知識で空腹を満たしてはいけない。経験こそが知恵と心の豊かさを生む。（北の山河抄）』
まぁ、達者で。
奥美濃登山の伝説の方でもあります。私もその著書から少なからぬ影響を受けた一人です。深田久弥が能郷白山を百名山から敢えて外さざるを得なかったのは、そこが今西博士の「テリトリー」だったからです。「深田君、いちど奥美濃の藪へ来てみたらどうだ。君にはちょっと荷が重いかもしれないが」
私の山の師匠から西柳ケ瀬の飲み屋で耳にタコができるほど聴かされました。師匠は岐大農学部（各務原にあった頃）です。
maasuke1様
そう思うと、奥美濃巡礼者は多かれ少なかれ今錦氏の影響下にあると言えます。ただ今錦氏も「サンノウの高」の命名はイタダケマセン。来4月岳人誌は深田号だそうです。岐大農学部が各務原に有った記憶は私の中にもあるくらいです。近所にユニーがあったもので。
全然仮名じゃないじゃん！！
西堀の孫、懐かしい！一年で山岳部やめちゃったけどね。いつもにこにこしていたので「シアワセ仮面」と言われていた。
蠍座ってストリップ劇場？？僕の頃はなかったですよ。
ぼくは林業、もっとなんとかなっていくと思います。ただ、まだ少し待たなければならないけれども。
macchanはともかく、ヨネさんもストリップ小屋に足を運んでいたのだ。
酔った勢いで西柳ケ瀬の「真砂座」という小屋に師匠に連れられて行ったこともあったナ。なん十年も前のことだ。
yoneyamaさま
いや、下は仮名よ。
ごく最近、とある方面からシアワセ仮面氏のその後を聞く機会がありました。
蠍座は、由緒正しき名画座です。蠍座については以前「映画」で書きました。
林業は、伸び代あると思ってい〼。
蠍座ならぬ真砂座、今も「まさご座」あり〼。
イナバ、懐かしいな。自分の同期って、13人もいたから、色んな奴がいたなぁ。
自分は農学部だから、一応、林業関係の授業も受けていたけど、その当時は「林業の将来は暗いなぁ。」という印象を持っていました。でも、今は「林業の将来、期待できるのでは。」と思ってます。
macchan、ガンバレ！
shake1987さま
おお、同期でしたねシアワセ氏とは。氏は理�靴�らの水産移行で、学寮でも学部でもアパートでも重なっていたので私はその後も付き合いありました。
シェイクさん農学部でしたね、迂闊なことは言えんなぁ。林業機械学科でしたっけ？私は漁業機械学講座でした。付け焼刃ですが、何とかこの世界にぶら下がっていこうと思っています。
いや、自分は農業工学科の農業機械専攻。ルームだと、先輩には陛下さん、スーさん、後輩はくさかがいます。当時の教授は陛下さん、スーさんと自分を見て「山岳部は優秀な奴が多いなぁ。」と云っていたのですが、その後に入ってきた、くさかを見て評価を変えたとか。
林学科はtadaさん、淡路さん。淡路さんはmacchanが入る前に辞めていたので、知らないかも。道庁の林産関係の職に就いたと記憶してる。
何より、イシバシ兄が林野庁のキャリアだね。大昔、saitoと甲斐駒に岩登りに行った際、その麓で営林署長をやっていたので、泊めてもらったことがある。営林署の飲み会に同席させてもらったが、そこの職員に死ぬほど飲まされて失神（ブラックアウト）を経験した（笑）。
シェイク様
林業機械は冗談です、農機。ノウキとチコウは優秀な山岳部員の行先定番でしたね。
あはは、日下！ 日下はある意味に於いては優秀な奴です。
甲斐駒の時にそんな話がありましたかぁ。
「ブラックアウト」；中嶋徹氏がイギリスで初登したE9 6cのルート。
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