|
家族を大切にし、伝統の中に価値を見出し幸福に暮らすシリアの家族を撮影した写真集、「オリーブの丘へ続くシリアの小道で」は、彼女の新しい世界をみせてくれた。しかし、2011年に始まった民主化運動を弾圧するシリアの内戦はその後地獄と化して、今現在も10年近く続く終わらない悪夢だ。シリアに関わった彼女は、幸せだった人たちのその後の窮状を危険な治安機関の制限のなか撮影、あるいは取材し続ける。
https://aach.ees.hokudai.ac.jp/xc/modules/AACHBlog/details.php?bid=745&cid=7
帯に角幡氏とヤマザキマリ氏の推薦文が。探検家角幡氏はわかるが、ヤマザキマリの応援はなるほどと思った。小松氏は、シリアの60人もの大家族の末っ子男性と結婚し、元ベドウィン(遊牧民)の砂漠伝統家族の仲間入りをするという、思い切った人生を選択していて、この点が「モーレツ!イタリア家族」の一員になったヤマザキ氏や、イギリス人と結婚し最近おもしろい本を連発しているブレディみかこ氏に通じるたくましさがある。本著の前半はそんなベドウィン風の古き良きイスラム的大家族の幸福な魅力が語られるのだが、今世紀最悪のシリア内戦の当事者として、ストーリーは続いていく。
思うに彼女は、選ばれてしまった人なのだ。強剛登山家が4人に一人の確率でがあっけなく死んでしまうことで有名な死の山K2から、仲間と才能と努力と運に恵まれて生還した運命といい、地獄と化すなんて想像もしなかったほんの数年前の幸福な時代のシリアを知った上で、今の惨状を知ってしまった運命といい、本人も予期しなかったことではないか。
しかし、アフガンの故・中村哲氏も言っていた、「見てしまった、知ってしまった、放っておけない」これが彼女の運命ではないかと思う。そして運命は、弱い人間を選びはしない。大学山岳部で山登りにとことん打ち込み、強い心を持った彼女だから、今こうしてシリアの内戦から逃げずに歩んでいけるのだ。そしていま最もやりがいのある仕事、ちいさな二人の子供と歩む実り多い人生の時間を過ごしているさなかだと思う。
「山岳部員出身」というちかしさから、20代の数年間を山登りのことばかりを考えて過ごしたという共感から、彼女の人生を私はひとごとと思えない。彼女は、自分で選んだ人生の舵を決して離していない。船は波に漂うが、舵だけは自分で握り続けて決して離さない。子どもたちのビレイを続けながら。その姿がとても尊い。
人間の土地へ
小松由佳
2020/9
集英社インターナショナル
https://aach.ees.hokudai.ac.jp/xc/modules/AACHBlog/details.php?bid=779&fbclid=IwAR34m2VTwV9Nxf2Dbj7BUNbVkB6vEsVKTGXPZswreWTG8a2pPi1sm9oH1Zk
yoneyamaさん、こんにちは。ベルクハイルです。
いつも良い本を紹介して頂いてありがとうございます。興味深く日記を読ませていただいています。
でっかい登山記録を達成してしまうと、その後、さらにハイレベルな山を求め、結局、山で亡くなってしまう登山家って多いですね。
例えば日本人クライマーでは、(故)栗木史多氏や、古くは(故)長谷川恒男氏、(故)加藤保男氏などなど...
ヤマレコユーザーでも、(ID名は出しませんが)山にのめりこみすぎて、遭難死された方も複数おられるようですし。
飲めば飲むほど喉が渇く、ビールのようなものかもしれません、山というものは・・・
その点、紹介して頂いた小松由佳さんは、うまく人生航路の転針をされていますね。最近、名前を聞かないなと思っていたら、シリアで生活されているとは意外でしたが。
「汝、己を知れ」とか、「分相応」とかいう言葉を想い起しました。
小松さんも高所登山家としての類まれな才能はあったと思います。ヴォイテク・クルティカを読まずとも、8000mコレクターの世界は劇場的過ぎます。本来の登山とはもっと内面的で自由なものだと思います。その点で、小松さんはかなり自由な舵を取ったと思います。
コメントを編集
いいねした人
コメントを書く
ヤマレコにユーザー登録いただき、ログインしていただくことによって、コメントが書けるようになります。ヤマレコにユーザ登録する