眺めの良いお墓

松本市東郊の薄川扇状地を自転車で登ると両脇の丘の上には16世紀の山城跡がある。1550年に武田信玄に滅ぼされた国人の城だ。その山城歩きの帰り、ぶどう畑の中に陸軍上等兵金井直登の墓があった。4年前の今頃だ。

三城に向かう自動車道路から外れたぶどう畑の中で、古くからの集落が点在する狭い小道だが、ここは北アルプスの眺めが抜群なのだ。電柱も電線もかぶらず、鉢盛山。乗鞍岳、大滝山、蝶ヶ岳、常念岳、・・・蓮華岳まで見える。

きのうは晴天。常念山脈はまだ積雪がないが、乗鞍、槍や蓮華岳はもう真っ白だ。

碑によれば直登さんは、明治40（1907）年生まれ、初めの徴兵は松本歩兵50連隊で21歳での山東出兵。これは無事帰還。二度目の出兵の1932年北満の抗日ゲリラ掃討戦で戦死、25歳。建国間もない満州国の治安防衛兵、今ならザポリージャ派遣の若きロシア兵か。

戦死場所があの広い満洲の、私の母（1929年生まれ）が幼少期過ごした安達（アンダ）駅郊外と書いてあり、記憶に残っていた。20年前、母とアンダを訪ねた事がある。大平原の只中の孤島のような集落で、駅舎は北清鉄道時代のロシア風建築だった。

農家に生まれ、徴兵にとられた短い生涯だが、彼にとっては遠征も青春だったのか。死を悼んだ父親が建てた碑だ。この通りには馬頭観音や道祖神や、庚申塚の石碑が残る。大事なことは石に刻むのだ。1932年時点はまだ戦死者を丁重に弔う余裕があった。連隊長の筆とある。

碑は不思議だ。初めは弔いのため、やがて郷土の誇りのため、あるいは国の誇りのため、やがて反戦祈念のため、本人を知らない人も時を超えそれぞれの思いでこれを読む。読み手の想像力を問うようだ。誰か私の青春を想像してください。と。

お墓の周りにはコスモスやシュウメイギクが咲いていた。
「お墓の周りに　花が咲いて　そっと優しく　抱かれていた」
という「花はどこへいった」の詞が思われた。（忌野清志郎訳の）

4年後に、このお墓の近くに引っ越してくるとは思わなかった。近所になったからまた天気の良い朝に行ってみよう。松本の町で同年代の祖父と、北満の果で幼児だった母と会ったことがあるかもしれない直登さんだ。

4年前の山行記録です。↓
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