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2012年11月24日 13:58山と原発全体に公開

避難と帰村。答えが見つかることと、見つからないこと

**今回は一つの答えが見つかる問題と、そうでない問題について書きます。(長文をお詫びします)
 郷里を思い、そこでつくられた電気を使ってきた自分の都会暮らしを思い、例年通ってきた奥利根などのフィールドの汚染も考えてきた、このシリーズでした。
 でも、自分でもこれだという解に行き着けない問題、みんなが一致する答えにたどりつけない問題もあるんだなと、このごろ思っています。

 **先だって、福島市の実家の姉夫婦から電話がきました。「庭の渋柿がいっぱい実ったから、送ろうか、どうしようか・・・」。私は、「子どもも孫たちも食べることができないから、送り賃がもったいないよ」、といいました。姉は、「そうだよね・・・」と言ってました。
 その電話のあと、福島県の県北地方名産の「あんぽ柿」の出荷が、今年も見合わせになるというニュースと、試験的に測定した柿から今年も基準を超える放射能が検出されたというニュースが伝わりました。
 実家はこの2年弱で3回、自主自力の除染をしました。でも、義兄はあきらめました。道路を挟んだ向かいは土建屋の資材置き場。庭の土を這いでも、家の壁や塀は除染の方法がないし、周囲からのセシウムの拡散で、値は下げ止まりになっています。

**以前、私の友人が駅前の観測ポイントと、報道で発表される定点監視ポイントとを比べたところ、JR福島駅前の方が数割分も値が高いと伝えてきたことを書きました。県が発表する値がなぜ、低めに出るのか、研究者と市民団体の調査でなぞが解けました。定点監視地点では、周囲より回数を多く除染を頻繁にやっていたり、観測装置のセンサー部分の下に金属板が置かれて放射線を遮蔽していた、などの実態が明らかになったのです。
 いまも福島市は毎時0・7マイクロシーベルトと公表されています。しかし駅前の値は0・9前後です。実際の値を1マイクロシーベルトとしても、戸外に半日いるとして、外部被ばく分だけで年間4・3ミリシーベルトを被ばくすることになります。国際基準にそって国が定めた除染対象基準の4倍の水準です。

**こういう実情はみんな気にかけています。だからこの秋に発表された福島市民へのアンケート結果(市が実施、全市民のうち、市内5000人、市外避難者500人抽出)では、34%の市民が「今でも避難したい」と回答しています。
 福島市では、いまも市外への避難中の市民は母子を中心に7000人以上います。そのうえに、いま福島市で暮らしている人も、3人に1人が「これから避難」を希望していることになります。
 たいへんな割合です。
 避難の形でなく、正式に届け出て転出する人もいぜん多く、県全体では現在も、毎月2000人規模で他県への転出超過が続いています。年代的にも、14歳までの子どもと、44歳までの親の世代が、転出超過の半数を占めています。同じ被災県でも宮城県は転入超過に転じています。
 福島市、郡山市、二本松市など避難対象地域に入っていないエリアから、やむなく避難している母子や家族にも、差別なしに避難地域に準ずる公的な支援をお願いしたいと思います。

**安達太良山のふもとの二本松市も、福島市と同じレベルの汚染に見舞われてきたところです。
 市はこの8月まで、乳幼児から小中学校の生徒たち、妊婦までの各世代8327人に積算線量計を配布し、日々の生活でどれくらい被ばくするのかを調べました。
 その結果、小中学生4210人のうち76%(3190人)が、基準の年1ミリシーベルトを超えて被ばくしていることがわかりました。小中学生全体の平均値でも、1・4ミリシーベルトでした。
 しかも、小中学生の45%(1969人)は、昨年の測定値よりも大きな被ばくをしていました。
 事故から1年余りたって、なぜ大きな被ばく線量になったのか。昨年のNHKスペシャルの「汚染地図」シリーズにも登場していた木村真三さん(独協大)は、「去年は生徒たちの屋外活動が制限されていた。今年はそれが増えたためではないか」と述べています。

**汚染がよりひどかった地域は、避難を続けるか、郷里にもどるか、もっとつらい選択になっています。
 いま原発周辺の自治体では、年間被ばく線量に換算して、次の3つの区分で「帰還計画」がすすめられています。

 50ミリシーベルト以上の地域は、5年、様子を見る。(打つ手なし)
 50ミリシーベルトから20ミリシーベルトの地域は、国が除染をすすめるが、現実にはごく一部分しか手が回らず、大半を実質的に放置。
 20ミリシーベルト以下の地域は、除染をすすめつつ、帰還をすすめる。

 この方針が実施され始めて、公共施設や人家の除染がはじまったものの、線量は思うように下がらない。剥いだ土壌や伐採した樹木の行き場がなく、そのうえ値は中途までしか下がらないし、また上がりさえする。
 除染の効果を上げるには、民家だけの「点」ではなく、集落の裏山や水源の森などの間伐や枝打ち、汚染表土の飛散防止など「面」の対策が避けられない。でも経費が膨大すぎる。環境省は「森林除染は必要性がない」といい、福島県側はこの国の方針に反発しています。

**郷里への帰還には自治体ごとにも判断はまちまちで、住民の判断はさらに分かれました。
 原発の直近の浪江、大熊、富岡の3町は、「5年は帰還は無理。除染を促進してみんなで帰ろうという」と長期戦を表明しました。多くの住民が埼玉や都内に避難している双葉町も同じく長期の構え。
 やはり汚染度が高めの飯舘村は、村で除染計画を立て2年で故郷へもどりたい方針です。
 これらの地域は、住民の6〜7割が「当分、戻るつもりはない」、「戻らない」と答えているところです。宅地や公共施設だけの除染では帰れないというのは、大多数の認識です。
 20ミリ以下なら帰還しなさいと国が言うのは、帰還が遅くなるほど、損害賠償や避難者の生活支援の出費が増える、だから早くと、せかしていると指摘されています。

**汚染度がこれらの自治体より低めで、福島市よりは少し高めの川内村のケースは、11月23日のNHKスペシャルで詳報されました。
 夏から全村民の帰還をすすめてきたものの、3000人の村民のうち、まだ1000人が帰村したところ。戻って大半は高齢者らでした。原発に間接的に依存してきた村だけに、大熊、富岡などの現地の町が復興しないと、川内村の経済が成り立たない。商店が復興しなければ買い物もできず、家族は戻れない。
 村長は関西から製造業の工場を誘致するなど頑張っていました。村内に除染して出た廃棄物の貯蔵場所も必死で確保に動いていました。しかし、全村避難から1年8ヶ月。働き手は域外に仕事場を探し始めていて、いったいどれだけの人が戻ってくれるのか、見込みが立ちません。そもそも20〜30キロ圏のこの村でほんとうに家族が安心して暮らせるのかどうか。若い世代の大半は帰っていません。

**いまも福島原発事故で避難を続けている人は16000人におよんでいます。川内村に1000人、他の町の20ミリ以下の地域にも数百人はもどったのに、避難者の総数は去年秋と同じまま。
 ここに取り上げた範囲で見ても、避難を続ける人、村に戻る活動を始めた人、新たに避難したり、転出する人など、考えや対応は様ざまです。
 国際基準では一般人は年間1ミリシーベルト以下が被ばく線量基準です。1ミリシーベルトは、外部被ばくのみの分です。だから、食物や水からの体内での被ばく、そして事故直後の被ばく(福島市でも50ミリシーベルト前後に達した時期からの、数週間にわたる外部被ばく・内部被ばくの分)は、今では推計が困難です。
 私はほとんど常時、東京にいて、数値でいえば福島市よりも2桁低い汚染レベルの水を飲み、西多摩地域などで収穫された農作物を食べ、やはり福島市より1桁から2桁低い汚染レベルの奥多摩や奥秩父の野山にでかけて、少量のきのこや山菜を味見しています。
 その私の行動範囲でさえ、この秋はあちこちで、キロ当たり100ベクレルを超す野生きのこが見つかってニュースになったり、出荷停止になりしました。

**この条件で、まったく気にしないで普段どおり過ごすのも1つの判断です。
でもそのときに、
 いまも避難を続ける人たち、
 避難するかどうか迷いに迷いながら暮らす人たち、
 ずっと高い放射線量の自宅にもどって家族を少しでも改善した条件で迎えようと活動する人たち、
 その人たちのことを私はもっとよく知りたいし、いっしょに考えていたいと思います。そして、選んだ道が別々でも、その方たちが選んだそれぞれの道をきちんと応援できる社会であってほしいです。
 そこには農業とその技術支援を志して頑張ってきた、私の同窓生らもいます。
 福島でいま選択が迫られているのは、線量を基準にしてばっさりとシロクロを付けられない苦汁の選択です。1つの答えがあるわけでない。もちろん放射能なんてない方がいいです。しかし、それと格闘し、乗り越えなければ、先がないところに、おかれている人たちもおおぜいいます。
 線量ゼロは厳格なベストの基準です。しかし、そこへ向かう現実の努力をしっかり見たいと思います。

**せめて国にやってほしいことは、線量が高く住みなれた家に戻れない人への家屋と宅地の損害賠償で、固定資産税の課税評価額まで値切って買いたたくような東電の態度を改めさせてほしい。わが家を敷地ごと住めなくされて300万円では、家は建ちません。そのうえ補償を遅らせて値切るのは二重三重の苦しみを広げるものです。10兆円かかっても、家と土地と避難者と農産物と、観光などの諸産業の補償をやってほしい。
 それと、県土の面積の7割を占める山林をふくめた汚染地域の長期計画の全面除染です。こっちも10兆円規模かそれ以上かかるでしょう。さらに北関東エリアの除染分や、首都圏の下水道の放射能汚泥の持って行き場もあります。
 その分と、事故原発の後始末の分(これも数兆円規模)、核燃料の後始末(今後30年分だけで8兆〜18兆円と国の機関が算出)をちゃんとぜんぶ計上したうえで、「原発の経済性」なるもののそろばんを弾いてほしいです。(あっと、これから作成する30キロ圏の避難対策経費もありました。)今年割り増した原油代なんて、全経費の何十分の1にもなりません。原発は発電する電気分の数倍の金を食う採算性のない装置です。

**原発事故からの収束と復興は、いまがとても大事な段階を迎えているように思います。
 16000人の避難された方が故郷に帰れないうちは原発事故は終わらない。
 でも、そのためにどうするかは、いろいろな置かれた立場や願いをもとに、互いに理解し尊重し合って進むしかないようです。
 相手が人の制御を超えた放射能なんですから、最良の知恵と勇気を集めないといけません。
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コメント

RE: 避難と帰村。答えが見つかることと、見つからないこと
共感と尊敬を持って読ませていただきました。

この日記、ヤマレコユーザーのみならず、全ての方々に呼んでいただき考えていただけたらいいのになと思いました。

放射能は今現在、人類にはアンコントローラブルです。
目に見えず味もニオイもせず、よっぽどでなければ急性の症状が現れません。

日常生活で、気をつけている人も居れば、ほとんど忘れている人も居るような気がします。
今年一年我慢すればなんとかなるという話ではありません。

今現在大人といわれる立場にあるのに、今後更に将来に向けて、負の遺産を残してしまうことが無責任に思われてなりません。

みんなで考えるしかありませんよね。
2012/11/27 21:09
RE: 避難と帰村。答えが見つかることと、見つからないこと
 gogo1528さん、そうですね、みんなで考えていきたいし、関東甲信越などでも、みなさんが住んでいるエリアでさえ、大小いろいろなレベルで放射能とは背中合わせで暮らしているということを、考えていきたい問題と思います。
 首都圏の場合、行き場のない下水道の汚泥(これは人体を通過したり、雨とともに流れ出したセシウムを含む)の問題や、ダム湖、河川、東京湾への流入もあります。

 先だって、原子力規制委員会が風向きなどの気象データをもとに、列島各地の原発事故の際に、放射能が30キロ前後の地域にどのように拡散するかという、拡散マップを公表しました。
 列島のどの地方でも、安心できる場所はない。
 新潟県の魚沼のコメどころでは、30キロ以遠に放射能が飛散するということで、ショックを受けていました。

 でも、このときの値は、1週間で100ミリシーベルトを被ばくするという、とても高い基準のエリアを示したものでした。福島でいえば、全住民がただちに避難した原発直近のエリアです。
 もし1カ月、2カ月とそこにとどまれば、100ミリの数倍の被ばくをする。そして実際に、住民は帰還のめどもたっていません。

 米が作れないとか、一時避難するなどというレベルをはるかに超える汚染地域が、発表された30キロのエリアを超えて、ずっと広域に拡大します。新潟県(柏崎・刈羽の6〜7基)の想定より規模が小さい事故に位置付けられる福島の事故でも、現にそういう地域が生まれています。

 これは一例ですが、いま流されるニュースや情報は、まるっきり間違いではないけれど、現実に置き換えて考え直さないといけない問題をはらんでいます。
 実際に生身の家族、そして村や町などのコミュニティーがどのような場面に立たされるのか。そこまで考えて、初めて問題が実感できるように思います。

 福島でいますすめられている活動は、問題を現実の状況から考えさせてくれると思っています。いろいろな立場や考えの方が、前に進む努力をしている。
 実際に現在進行中の被災者・避難者の問題を欠いた安全・危険の論議や、コスト論は、リアルな足場がありません。 
2012/11/28 6:17
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