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2013年03月11日 22:55山と原発全体に公開

自然にたいする畏敬と理性と――3・11から2周年。

 ◆私はその写真をニュースで見るたびに、複雑な気持ちになります。
 静岡県の浜岡原発で建設がすすむ高さ18m(海抜高度)の「防波壁」のことです。この防潮堤、高さはあるけれど、厚みが2mしかありません。遠目には薄い板の塀のよう。(写真)
 あの「世界一」を誇った大防波堤があった宮古の田老の浜の漁師さんらが、浜岡の堤を見たら、「そんなんじゃ、何の役も立たん!」と思ってしまうでしょう。私も、日記で書いてきた漁師のおじさんに会いに行ったとき、田老の大防波堤の残存した部分の上に登ってみました。

 田老の堤防はてっぺんでも厚みが8m〜10m、底辺では20mもの厚みがありました。高さより厚みの方が大きかった。
 でも大津波は、その防波堤を、海底から引き抜き、横倒しにし、寄せ波と引き波とで、寸断してしまいました。
 対して、浜岡原発の急ごしらえの防波壁は、前面も後面も、壁は垂直。厚みはなし。津波対策の防波壁ではなく、ただの塀です。
 そのうえ、想定津波に高さが足りないとのことで、4mの応急のかさ上げまで発表されました。(それって、基礎から強度計算し直しなのに・・・)

 津波は、普通の波と構造も規模も運動の性質もまったく別です。幅は数十キロ、奥行きは数キロもの、盛り上がった膨大な海水の塊が、がっちりかたまって押し寄せ、先端がぶつかってくる背後から延々と膨大な海水が突進し、押し込んできます。この総運動量に、建設中の防波壁では、まず重みの面だけでも、足りなすぎます。

 おまけに敷地の西脇の河口は、防波壁を伸ばすことができませんから、そこから流入して背後に回った引き波に襲われたら、原子炉建屋を守るものはない。

 「そもそも、そんな大津波が来るところで、原子炉を動かすということが、不自然すぎる」と、私は思ってしまいます。
 原発は大量の海水を冷却水として取り続けなければなりません。
 しかし、大津波のときは、30分という長い周期で、引き潮があり、海水を汲めません。
 なんでそこまで無理するの?

 そのうえ原子炉は、東海地震の断層の真上に位置しています。
 この原発は、30キロ圏に90万人余の人が住んでいるだけでなく、事故があれば中部山岳地帯と東海、そして関東の人口密集地帯に、放射能を放出する位置に立地しています。
 中部電力がせっせと防潮堤を造っているのは、もちろん再稼働の期待からです。正式に2年後には再稼働すると会社は表明しています。

◆3月10日放送のNHKスペシャルは、過酷事故にそなえた日ごろの準備をしていれば、いまの機器そのままでも4つのうち2基は、メルトダウンを防ぐことができた可能性があると。そんな角度のものでした。

 でも、1〜3号機はいまだに、どこが壊れたかも確定されていない。人が中に入って確かめることも、阻まれたままです。原因が特定されていなければ、これで対策がとれるという対処のしようがありません。
 それでも夏以降に、順次、国内の原発は再稼働に向かう。
 
 ただ、今回のNHKスペシャルでは、1つの経過が明らかにされました。
 4号機の使用済み核燃料プールで溶融が起こらなかったのは、まったくの幸運からだったというのです。
 その幸運が起こる直前まで、核燃料プールでは刻々と水位が下がろうとしていたのに、人間はどうすることもできなかった。
 なぜなら、プールは原子炉建屋の中にあり、そこには水を送るどころか、線量が高くて、そもそも人が入ることもできなかったというのです。

 世界が注目した緊迫したやりとりのなか、幸運が起こりました。
 4号機建屋内に3号機からつながる通気管があり、そこから流れ込んだ水素ガスによって、建屋が爆発し、プールの周囲の壁が吹き飛んでくれたことです。
 これによってプールは青天井となり、ポンプ車で外部からプールに注水することが可能になりました。

 この「幸運」のくだりは、番組ではわずか10〜15秒ほどのナレーションがあっただけでした。事の深刻さに気付いた人は少なかったと思います。
 もし録画していた方は、番組終了間際のところを聞いてもらえると、事態がわかっていただけると思います。これこそニュースなのに、言葉が足りない。

 2つの建屋の配管設計の不手際(設計ミス)と、たまたまの爆発の仕方(壁は飛んだが、建屋の骨組みは残り、プールを支えてくれたうえに、プールもひびが入らなかった)が、続く応急措置を可能にしたのでした。
 絶妙な具合に、ほどよく壊れてくれたことが幸運したのです。

◆でも、ここには、もう一つ、問題があります。
 それは、隔離がされていないプールの核燃料が溶融した場合には、放射能の放出はケタが違うことです。

 このプールの水位に、一番注目していたのは、アメリカ政府とアメリカの原子力規制委員会でした。
 事故後、1週間ほどのあいだの2000ぺージにのぼる記録(NRCサイトで公開)に、一部始終があります。
 あのとき、アメリカ政府は、在留米人にたいして東日本からの退去を勧告し、大使館機能も大阪に移しました。
 彼らの想定は、半径90マイルで100ミリシーベルトの被ばくというものでした。
 
 これが現実のものとなっていたら、福島だけでなく、北関東と東北は、はるかに線量が高く、人がいられる場所ではなくなる。
 彼らはその危惧と対応のために、岩手でのトモダチ作戦も延期しました。
 菅首相が「東日本がだめになる」と言ったのも、この危機があったからでした。
 
 幸運の連鎖で、東京の被ばくは軽微で済んだ。
 事実はそういうことです。
 けっして備えが十分だったのではない。
 いまの原発は、みな、大量の使用済み核燃料と同居しています。
 
◆活断層があっても、原子炉の真下でなければいい。
 過酷事故対策の改修工事の計画を出せば、工事が済んでなくとも、動かしていい。
 現実はなにも変わっていないのに、動きは加速しています。

 殺し文句は、「経済の足かせになっては困る」。
 でも、私は、これは錯覚だと思う。

 原子力は、根本を言えば、津波と同様に、自然の大いなるふるまいです。
 人はそれを制御できると思い、人の役に立たせることができると思って扱ってきた。
 そのうちに、あれこれ手を抜き、省略し、その分、経費を浮かせても、原子力を扱えるという錯覚が生まれた。
 国際機関に過酷事故の対策が抜けていると言われても、手抜きは続けてきた。
 使用済み燃料もいつか、誰かが、なんとかしてくれる。。。。
 
◆でも、自然には自然の論理がある。
 それが動き出したときに、人は何もできないことがある。

 だから、経済の論理をもちこむ前に、自然にたいしては、自然にたいする備えを用意しなけらばならない。
 いまの段階で人間が扱い得ないこと、後始末が不能はことには、経済の論理ではなく、自然科学の論理で、白黒をつけなければならない。
 ここをごまかしても無力だ。

 「経済のために」という理由で、自然はふるまいを変えはしない。
 自然の論理は、つらぬかれる。それは経済をも、実は台無しにする。
 幸せな人びとの、普段の暮らしをも。
 われわれは、この2年、そのことを学んできたのではなかったか。
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コメント

ゲスト
RE: 自然にたいする畏敬と理性と――3・11から2周年。
tanigawaさん、おはようございます。

 今週の日経ビジネスで核のゴミ問題を特集していましたが、トイレのないマンション状態の原発を本格的に動かすという選択はいくらなんでも無いんじゃないかと思っています。

 それと、なんぼか原発を再稼働するにしても浜岡はないんじゃない!・・・と考えます。昨年浜岡の防潮堤を見に行ったときは写真の薄っぺらな壁はありませんでした。取って付けたような対策ですね。本気とは思えません。
2013/3/12 5:14
RE: 自然にたいする畏敬と理性と――3・11から2周年。
 dari88さん、こんな、はかなげな防潮堤が、首都圏を原発事故から守っている?? と思うと、私は人の罪深さを感じてしまいます。

 現実を見れば、浜岡原発は再稼働はないと、思ってしまいますよね。
 でも、安部さんは、「前政権の原発政策は、リセットする」と言いました。
 中部電力は、当てがあるからこそ、堤防や電源車配置などの対策をすすめて用意している。
 経費は電気料金に上乗せするだけです。

 おととい、経済産業大臣は、「使用済み核燃料の行き場がなくなってきたので、今後は原発敷地内に新しいプールを増設して保管する」と表明しました。
 こと、原子力のことになると、人は理性的な判断ができなくなるようです。

 比べていい事例かどうか、わかりませんが、あのボーイング787は、蓄電池に疑いがかかった段階で、アメリカ航空運輸局が運行を止めさせました。

 日本の原発は、これにたとえれば、エンジンが制御できず、滑走路直下に活断層があり、地震と津波で飛行場も海水に没する。そんな状態でしょう。
 おまけに、何かあったら、近づけない。
 それでも欠陥機を飛ばすというのが、再稼働です。

 原発というものは、人の理性を失わせると、つくづく思います。
 「経済合理性」はちっともないけれど、膨大な国費と、電気料が、一部の人たち、「ムラ」に落ちるからでしょう。
 動かしたい人には、自然の脅威がとらえられなくなっているのでしょう。
 浜岡原発の防潮堤を見ると、費用は電気代に付け回せるという徹底した無責任さも感じます。

 私は経済は大事と思います。
 だから、電気は十分間に合って、今年の夏は、去年よりずっと楽にすごせることも調べました。
 大小の天然ガス発電がずっと増えてます。

 電気料金値上げというけれど、火発のために2兆数千億円の天然ガスの購入費が、かさむだけです。(単価では世界水準の3倍も高額なものを購入している!)

 これらとくらべ、事故補償はまだ2年目までの被害の1割も解決していない時点で、すでに3兆円を超えています。産業と生活への被害は10兆は軽く上回るでしょう。
 除染は最大10兆円かけても不可能。
 (だから、急きょ、20ミリシーベルトエリアにも強制帰還の動きが策定されつつある。
 帰らない人は、以後、補償の対象から外せるから。)

 40年がかりの廃炉は、実は期間も経費も想定不能。 使用済み核燃料も同じ。

 これらのうち電気料金に上乗せされているのは、天然ガスの分と使用済み核燃料の再処理積立の一部だけであって、大半は国費につけ回されている。子どもの世代に放射能と膨大な借金を残すだけです。

 原発はやめるのが、「経済」と国の財政の面でも、理性的です。  
2013/3/12 6:51
RE: 自然にたいする畏敬と理性と――3・11から2周年。
 使用済み核燃料、18日の電源停止で、やっぱり最大の懸案であることが明らかになりましたね。
 水がなくなったら、原子炉で隔離されていないだけに、放出される放射能の規模が違います。

 4つの建屋の中の核燃料は、建屋の中だったり、覆いをかぶせたりしていますが、放射能が高くて、なにかトラブルがあっても、おいそれと補修に入れないのが難点です。

 使用済み燃料を、原子炉建屋に置くこと自身が、危うい。福島だけでなく、全国の原発が同じ問題をかかえています。

 ともかく、除染もだめ、収束もまだで、帰還はたいへんです。
2013/3/19 21:53
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