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原発事故のリアルタイムの進行のなかで、当時、私が書いてきた「放射線が人体におよぼす確率的影響」もその一つです。
福島県の3年越しの大規模な検査で、心配な結果が姿を現しつつあります。
これは、原発事故当時に18歳以下だった子どもの甲状腺検査で、全県で37万人が対象。今年2014年2月にまとまった集計では、検査で判定を得た25万4280人のうち75人に、甲状腺がんと、がんの疑いがあるデータが確認・診断されました。
福島県によるこの検査は、事故後の2011年度から継続的に進められ、今年2月の発表で4回目になります。(福島県のサイトは下記に)
http://wwwcms.pref.fukushima.jp/pcp_portal/PortalServlet;jsessionid=D3041E52707C97CB8E25D7A1CEE08E21?DISPLAY_ID=DIRECT&NEXT_DISPLAY_ID=U000004&CONTENTS_ID=24809
25万人分を整理すると次のようになります。(検査の判定は4段階)
◆A判定 問題なし
A1 何も無し(問題なし) 134805人(53.0%)
A2 5ミリ以下の結節や嚢胞(のうほう)がある
117679人(46.3%)
◆B判定 急がないが2次検査が必要
A2 より大きい結節や嚢胞がある。 1795人(0.7%)
◆C判定 直ちに2次検査が必要
悪性度が高そうにみえる 42人(0.017%)
うち1人は良性腫瘍
◆甲状腺がん 33人(0.013%)
今後の経過が要注意のC判定と、がんの判定を合算すると75人。
全体の割合は、0.295%。つまり100万人当たり295人となります。
これまで、国立がん研究センターなどの統計では、10代の甲状腺がんは、100万人当たり1人〜9人程度とされてきました。
今回の結果は、その10倍〜100倍というケタ違いの確率でのがん発症です。
しかも、現時点では、放射線被ばくが原因とするならば、その影響はまだ序ノ口なのです。
放射性ヨウ素を体内に吸収することによる、甲状腺がんの発生は、早くとも5年め以降に出現するというのが、これまでの考え方でした。チェルルノブイリ事故の場合も、甲状腺がんの発生は10年前後たってから出現のピークが来ました。最終的に、甲状腺がんは5000人という規模に膨れ上がっています。
現地では事故後、一定期間、食物摂取による放射性ヨウ素の内部被ばくに無警戒だったことが、小児性がんが多数発生した原因とされてきました。しかし、福島では、この経験から、子どもの汚染食物の摂取はかなり制限されてきたはずでした。
そのため、専門家のなかには、いま福島で生まれている子どもの甲状腺がんを、「原発事故に原因があるものではない」と言う人もいます。県も被ばく原因説には踏み込みたがりません。しかし、それでいま進行している事態を説明できるわけでもありません。
福島で予想を超える早い時期に、予想を超える高い確率で甲状腺がんが発生しているのは、なぜなのか?
これだけの規模の公的な調査で、深刻な結果が出つつあるだけに、正確な検討が求められます。
なぜ、こんなに高い割合で、早い時期にがんが見つかったのか?
もしも、福島でのこの調査が、チェルノブイリなどの過去の調査よりも、検査の精度と性能が向上していたということなら、高い割合のがん検出の理由になるかもしれません。それでも、2桁前後もの検出精度アップは、やはり説明できないし、原発事故から3年で、これだけの割合でがんが出現したことも説明できません。
そこで次の理由が浮上します。
第1は、国内で子どもたちが吸収した放射性ヨウ素の総量が、実はより多かった? のではないかということです。
広域が汚染した汚染のチェルノブイリと比べて、福島ではより少ない放射能の放出であっても、より至近距離で多数の子どもが初期の大量の放射能放出にさらされたか? その可能性です。
第2の理由は、そもそも放射性ヨウ素を体内に取り込む内部被ばくによる甲状腺がんの発生は、これまで国際的に想定されてきたよりも、高い確率で発生するのでは、という問題です。チェルノブイリでは調査が十分ではなく、いま初めて福島で、影響の本格的な解明の第一段階が始まったということです。
率直に言って、このあたりは深刻な疑問点です。
放射性ヨウ素による成長期の子どもたちへの影響は、従来、国際的目安として言われてきたものよりも、はるかに高い危険性があるのではないか? このことが、わずか3年間の調査で問題になろうとしているように思っています。
今後も、すべての子どもたちへの継続的な調査・治療が必要です。
併せて、甲状腺がんの発症割合の今後の推移いかんでは、事故の初期の段階で、放射性ヨウ素をふくむ「放射能の雲」に襲われた北関東などでも、エリアを拡大して検査をおこなう必要があると感じます。
(なお念のため。甲状腺がんを特異的に起こす放射性ヨウ素については、半減期が数日単位と短いため、現在では福島と近県でも、すでにほとんどが遷移・消滅しています。)
あの事故の初期の段階で、政府・東電が原子炉の圧力を下げるために、ベントをおこなう準備を始めた時点で、私は、ヤマレコ日記で、ベントするなら住民、とくに子どもたちに“ヨウ素剤”を服用させるよう、書き込みをしました。
結果的には、たった1つの町だけが自発的に住民にヨウ素剤を配る取り組みをしただけで、多くの子どもたちが、放射性ヨウ素をふくむ濃い“プルーム”の下に無防備で置かれました。
私からの電話を受けて、私の姪の家族も、その雲の下を、南相馬市から福島市の実家へ、そして新潟へと長時間にわたる逃避行をしました。
地震は制御できません。そして原発もまた、いったん動きだしたら、本質的に制御不能なものでした。
核をコントロールできると思い込んできた人間は、いまだに事故現場に入ることもできない。原子炉が破壊して水棺が不能なので、今後、何十年も核燃料を取り出すこともできない。放射性セシウムなどふりまかれた膨大な放射能の後始末もできません。
多くの方が故郷を離れたまま、避難先で亡くなられています。
関東では赤城沼のワカサギも、奥利根のきのこも、基準超えのセシウムにまみれたままです。
原発事故は、まだ終わってはおらず、その結果も広がっています。
私たちは、忘れてはならない体験をしただけでなく、その結果を現在も進行形で、目撃しているのだと思います。
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