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今度もブナの話題です。
ブナ林といえば大規模なものは東北と北陸に分布しています。規模は小さいものの、丹沢山や奥多摩の三頭山には、関東の他の地域のようなイヌブナではなく、より低温に適応するブナがまとまって生えている美しい林が残されています。
おそらくブナ林としては、「南限」の一つと言っていいと思います。
温暖で雪が少なく標高が低い南関東の山の一部にブナ林が残されてきたのは、何故? 私も知ってびっくりしたのですが、三頭山で興味深い謎解きが行なわれてきました。
ブナの実は、気温が高い地域や乾燥した地域では発芽しにくい。ところが三頭山の場合、大きなブナの木は、沢から離れた尾根と山腹にまとまっています。山頂部から見て北東側とはいえ奥多摩の尾根ですから、夏場の乾燥はなかなかきびしい。そんな場所に生長して大木になったブナがまとまった林をつくっています。
樹齢を調べてみると、このブナたちが芽生えて育った時期は、今から200年も前のより寒冷な時代だったためらしい。
そんな調査・研究が、いまから20年余り前に行われました。
沢筋の、ブナがより育ちやすいはずの場所に、ほとんどブナが見られないのは、他の樹木が繁茂しているため、あるいは現在の気温がすでにブナの芽生えがむずかしい水準にまで、上がっているため、などと見られています。
調査でわかったことは、現在、まとまったブナ林をつくっている山腹のエリアに、やはり若いブナの木はほとんどないことです。老いたブナは寿命を迎えて次第に倒れ、朽ちてきていますが、そのあとを埋める若いブナは生まれてきません。
原因は同じ。現在の気温が200年前と違い、種子の発芽・生長にふさわしくない水準に上昇しているからです。尾根は乾燥するため、発芽はとくにきびしい。
(200年前の小氷期の原因は、火山の噴火で大気中に火山灰とガスが吹き上げられたという説、太陽の活動が低下したという説など、現在もさまざま検討が続いています。)
いずれにしても三頭山のブナ林は、ここ100年ほどの南関東の平均気温のもとでは、本来は存在できなかったもの、ということになります。
ブナの巨木の森は、大菩薩や雲取山方面にもあります。歩き回った印象では、ここでも若いブナへの更新はうまく進んでおらず、倒木が目立つようです。
このままでは、数十年のうちに、三頭山のブナ林は消滅していくのではないか?
ここで起こっている変化をもたらしたのは、自然の気候変動、しかも平均気温に直したら1度分になるかならずかの、変動です。しかし、その分だけでも、「南限」付近にある奥多摩の森と、そこで暮らす動物には、相当なダメージを与えつつあります。
(ここまで、「山の自然学」 小泉武栄著、1998年、などを参考にしました。)
現在、進んでいる温暖化ガスの排出による人為的な気候変動のスピードとスケールの場合は、ブナ林はどうなるのか?
これは白神山地をモデルにして、環境省が所管して検討しています。
きびしい予測が出されました。(続く)
ためになるお話ありがとうございます。
瀬戸際(南限・北限)に暮らす動植物たちは大変ですね。
地球環境の変化によって、人間みたいに環境の適するところへ移住できないですし。
(しかし、人間の移住にも限界が間違いなく来ると思いますが・・・)
個々の動植物たちにとって、
環境適応→生存
環境不適→死滅
なんでしょうか。
なんでもそう(?)ですけど、末端からやられてくるですかね・・・
ブナ林は「生きた歴史の教科書」とでも言いましょうか、
なるほど、小氷河期(14世紀半ば〜19世紀半ば)の状況が見えてくるとはビックリです。
slimeさんへ。
>なんでもそう(?)ですけど、末端からやられてくるですかね・・・
南関東や、伊豆半島や、四国山地のごく一部で森をつくっている「南限」のブナたちには、いまはかなり酷な時代ということになりますね。
環境省所管の研究報告では、温暖化とブナの北への逃避行との、移動速度の差も検討しています。
*温暖化の速度(等温線の北上)。100 年間で10〜50km 。
*ブナが北へ分布を拡大する速度(逃避行の速さ)。過去最大値でも、100 年で23.3km 。
等温線の北上速度は地域によっても異なり、国際的には、現在の、等温線が北上する速度を、環境省のこの報告書よりも1ケタ大きめに見積もるデータがあります。また小さく見積もる場合もあります。
この「かけっこ」では、ブナが子孫を作りながら北へ移動するのは、かなり難しいようです。
やはり温暖化の進行が速すぎる。
それに彼らにはブナの北上を遮る人工物、田畑も待ち構えていますから。
それに北上がある程度できても、「南限」のブナが消えるのはまちがいありません。
何でも末端からやってくる、というのは、確かにそうですね。
地球上では、気候や地形がより厳しいところから、
国内では自然とともにある農業の作柄から、
都市部では、昨夏の東京のようにクーラーを使う経済的余裕が奪われたお年寄り世帯などから、
日照り、洪水、熱中症などが最初の被害をおよぼし始めています。
山では、高山植物や獣たちが、最初の兆候を示し始めているけれど、私たちはまだその一部しか、見ていないのかもしれません。
tanigawaさん こんにちは。このテーマに関しては
意識は高いと自負してますが知識とデータが少ないので
コメントに迷ってましたが・・・
京阪神では大阪府に金剛山(1126m)周辺 和泉葛城山(860m)周辺に奇跡的にブナ林が残って天然記念物に指定されてますが やはり温暖化と都市化の影響でブナの更新が進んでいません。地元・行政でも
努力はしてますが衰退の一途を辿ってるようです。
「おかけっこ」の最後尾でこういった大都市近郊での
ブナ林衰退はもはや止められないかなと悲観的になります。
中国山地のブナも同様で歩いてると結構広く分布して
安泰のように錯覚しますが実は林業政策の影響もあり
全森林の5パーセント以下で このまま温暖化が進行すれば 真っ先に消えてなくなることでしょう。
tanigawaさんがおっしゃるとおりで
>山では、高山植物や獣たちが、最初の兆候を示し始めているけれど、私たちはまだその一部しか、見ていないのかもしれません。
まさにその通りだと思います。今年の冬がデータ的には
どうか今のところわかりませんが 一般的な感覚では
「寒い冬」そして昨夏の「猛暑」で温暖化なんてほんとなの?という声も聞こえそうですが・・・
末端では人間も動植物も被害を受け始めてるのにも
かかわらず このままでは冬に雪が全く降らなくなるぐらいまで 行政もマスコミも企業も人も動かないのかな
と悲観的になってます。
miccyanさんへ。
>京阪神では大阪府に金剛山(1126m)周辺 和泉葛城山(860m)周辺に奇跡的にブナ林が残って天然記念物に指定されてますが やはり温暖化と都市化の影響でブナの更新が進んでいません。
>「おいかけっこ」の最後尾でこういった大都市近郊でのブナ林衰退はもはや止められないかなと悲観的になります。
日本列島では、数百年の昔、自然の気候変動で平均気温が下がったときに、ブナ林はずっと広く分布を広げたのでしょう。
その後の自然の気温上昇で、「離れ小島」のようにあちこちに、分断されてブナ林が取り残された。
私が奥多摩や丹沢の限られたブナ林に残ってほしいと思っているのよりも、ずっと強い気持ちで、関西の方もブナ林を見守っているのかな、と想像します。
>このままでは冬に雪が全く降らなくなるぐらいまで 行政もマスコミも企業も人も動かないのかな
と悲観的になってます。
温暖化の場合は、時期を逸すると止めようがなくなる「臨界地点」が心配されています。国連IPCCのとりくみに参加してきた15人の日本の研究者が、共同で声明を出しています。
http://www.env.go.jp/earth/ipcc/4th/message_main.html
そこでは、気候システムには「慣性がある」、動き出すまではゆっくりだが、いったん加速し始めたらもはや人間には止め難いとのべています。
私は、お鍋に大きなカエルを入れて、コンロのちょろ火でゆっくりゆっくり加熱する様を、思い浮かべました。実は普通でない変化は始まっているのに、「低温やけど」のうちは、リアルタイムでは感じない。
未来にたいする人間の理性的な認識はすすんできたはずなのに、生存にかかわる大状況よりも、むしろリアルタイムの損得に目がいって、その情報は生かされない場合が多い。
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